【アクチュアリーが解説】収支相等の原則

     

収支相等の原則

保険料の計算方法を解説します。

保険料の決定に必要な基本原則

ここからは、生命保険の保険料がどのように決まっているのかを説明していきます。 この仕組みを理解することで、「なぜこの保険料なのか」という根拠が見えるようになり、保険に加入すべきかどうかを考える際の大きな助けになります。

アクチュアリーが保険料を決定するうえで、もっとも重要な基本原則が収支相当の原則です。 これは、『保険会社の収入と支出が、長期的・平均的に一致するように保険料を設定する』という考え方です。

保険会社の収入と支出

収支相等の原則は、集団全体で見たときに、保険料収入と保険金支出が一致する、という関係を意味しています。

  • 収入 = 保険料: 保険契約者から受け取る保険料は、保険制度を成り立たせる最も基本的な収入源です。
  • 支出 = 保険金: 契約で定められた事由(死亡や疾病、傷害など)が発生した場合、保険会社は保険金を支払います。

言い換えると。

被保険者数 × 保険料 = 死亡者数 × 保険金

となるように保険料が決定されます。

簡単な数値例で考える

以下は、仕組みを理解するために大幅に単純化した例です。

  • 被保険者数: 10万人
  • 死亡者数: 100人
  • 保険金額:1,000万円
  • 保険期間:1年

保険料を P 円とすると、

\[ \begin{aligned} \text{収入} &= 10\text{万人} \times P \\ \text{支出} &= 100\text{人} \times 1,000\text{万円} \\ \end{aligned} \]

したがって、

\[ \begin{aligned} & 10\text{万人} \times P = 100\text{人} \times 1,000\text{万円} \\ & \Rightarrow P = 1\text{万円} \\ \end{aligned} \]

となります。

保険料の計算例

保険期間が長期間にわたる場合も同様の考え方で保険料を計算することができます。ただし、保険料を毎年一定額ずつ支払う平準払の保険では、契約開始時点で被保険者数が10万人いたとしても死亡により2年目以降は10万人に満たない被保険者数しかいないことに注意が必要です。このため、単純に『年数×人数』では計算できません。

計算前提

  • 被保険者数: 10万人
  • 死亡者数: 毎年100人
  • 保険金額:1,000万円
  • 保険期間:3年
  
生存者数と死亡者数の推移
年度 生存者数 死亡者数
1 100,000 100
2 99,900 100
3 99,800 100

収入(保険料)

\[ \begin{aligned} \text{収入} &= (100,000+99,900+99,800) \times P \\ &= 299,700 \times P \end{aligned} \]

支出(保険金)

\[ \begin{aligned} \text{支出} &= (100+100+100) \times 1,000\text{万円} \\ &= 300 \times 1,000\text{万円} \end{aligned} \]

保険料の計算結果

\[ \begin{aligned} & 299,700 \times P = 300 \times 1,000\text{万円} \\ & \Rightarrow P = 10,010 \text{円} \\ \end{aligned} \]

契約者間の公平性をどう確保するか

理論上は、集団全体で収支相等の原則が成り立っていれば、保険制度は成立します。 しかし、生命保険は加入が任意の民間保険です。 もし、すべての人から同じ保険料を徴収した場合、リスクの低い人ほど「割高だ」と感じて加入しなくなります。 その結果、リスクの高い人だけが集まり、保険制度そのものが成り立たなくなってしまいます。

そこで実務では、リスクが同程度とみなせる人々の集団ごとに、収支相等の原則が成り立つよう保険料を設定するという考え方が採られています。これにより、契約者間の公平性を確保しつつ、保険制度を安定的に維持することが可能になります。

日本では一般に、加入年齢や性別によって保険料を区分します。これは、年齢や男女によって死亡率や疾病の発生率に差があることが、統計的に確認されているためです。 そのほかにも、商品によっては、喫煙歴、BMI、血圧、過去の入院歴などを用いてリスク区分を行うことがあります。

区分の設定方法に正解はありません。米国では年齢と性別に加えて、喫煙歴によって保険料を分けるのが一般的で、各個人のリスクがより詳細に保険料に反映されます。逆にEUでは社会的・倫理的観点から性別によって保険料を分けることが禁じられています。我が国で年齢と性別によって保険料を分けているのは統計的な妥当性に加え、長年の実務慣行や社会的受容性を踏まえた結果です。

一般の財やサービスとの違い

一般の財やサービス(例えば野菜やスマートフォン)は、需要と供給の関係によって価格が決まります。企業はまず原材料費や人件費などのコストを支払い、商品を生産したうえで、それを市場で販売し、売上から利益を得ます。

一方、保険はこれとはまったく逆の構造をしています。保険会社はまず保険料という「収入」を受け取り、その後、将来のどこかの時点で保険金や給付金という「支出」を行います。つまり、将来の不確実な支出を約束したうえで、先にお金を受け取るビジネスなのです。

このような商品では、もし保険会社が自由に保険料を決めて過度に安く設定してしまうと、将来の支払いに耐えられず倒産してしまう可能性があります。保険会社が倒産すれば、長年保険料を支払ってきた契約者が、いざというときに保険金を受け取れなくなってしまいます。

このため、保険料は完全な自由価格ではなく、金融庁の監督のもと、将来の支払いに耐えうるかという観点から審査されます。収支相等の原則は、保険制度そのものを持続させ、契約者を守るための最低限のルールだと言えます。

まとめ

  • 生命保険の保険料は、「収入と支出が長期的・平均的に一致する」収支相等の原則にもとづいて決められている
  • 加入が任意である民間保険では、リスクが同程度の集団ごとに保険料を分けることで契約者間の公平性を確保している
  • 保険は将来の不確実な支出を約束する商品であり、制度の持続性と契約者保護の観点から、保険料は金融庁監督のもとで慎重に設計されている