【アクチュアリーが解説】保険料と責任準備金の関係

     

保険料と責任準備金の関係

保険料と責任準備金の関係をアクチュアリーの視点から解説します。

責任準備金とは?

責任準備金とは、「将来の保険金支払いを確実に履行するために、保険会社が法律で積み立てを義務付けられているお金」です。

生命保険は先に保険料を受け取り、数十年先の保険金支払いを保障する商品です。受け取った保険金を株主配当や投資に使われてしまうと、いざ保険金支払いの必要が生じたときに保険会社の手元にお金が残っていないかもしれません。それでは、保険契約者が困ってしまいます。

そのため、「将来の保険金支払いを確実に履行するために、今これだけは手元に残しておかなければならない」という金額の計算方法が法律で厳密に定められており、保険会社はその金額を積み立てる必要があります

責任準備金の内訳

日本の法律上、責任準備金は3つに分類されます。

  • 未経過保険料: すでに受け取った保険料のうち、経過期間が到来していない部分
  • 保険料積立金: 将来の保険金支払いに備えて積み立てる、最も主要な部分
  • 危険準備金: 大震災やパンデミックなど、通常の予測を大きく超える異常事態に備えるための積立金

通常、責任準備金といった場合にイメージするのは保険料積立金なので、この連載では責任準備金 = 保険料積立金として読み進めてください。

責任準備金の計算方法

保険金支払は年齢が上がる契約後半に集中して発生するのに対して、保険料は毎年一定額です。したがって、将来の保険金支払いに備えて、保険料の一部を計画的に積み立てていく必要があります。

では、具体的な積立金額はどのように計算すればよいでしょうか?

責任準備金は、「計算時点より将来の保険金支払の割引現在価値」から「計算時点より将来の純保険料収入の割引現在価値」を差し引くことで求められます。

\[ \begin{aligned} \text{責任準備金} &= \text{保険金の割引現在価値} – \text{純保険料の割引現在価値} \end{aligned} \]

責任準備金の計算式は収支相等の式によく似ていますが、以下の2点で異なります。

計算基準日時点より将来のことのみを考える

保険料は保険期間全体を対象に計算を行いますが、責任準備金は計算基準日時点より将来のみを対象に計算を行います。

責任準備金を積み立てる目的が、将来の保険金支払いを確実に履行することであるため、過去の保険料収入や保険金支払いは関係しないためです。

事業費を考慮しない

保険料は事業費を考慮して計算を行う必要がありましたが、責任準備金では考慮しません。これは、事業費は初年度に多く支出し、その後の年度で回収する構造になっているため、事業費を考慮すると責任準備金の金額が小さくなってしまうからです。それに伴い、責任準備金の計算に現れる「保険料収入」は営業保険料ではなく、純保険料を使用します。

事業費を考慮した責任準備金を計算することも可能ですが、契約者保護の観点から、事業費を考慮しない計算方法(責任準備金が大きくなる方法)が採用されています。

責任準備金の計算例

第8年度はじめの時点における責任準備金を計算してみましょう。

まずは、純保険料を計算し、その後の責任準備金の計算を行います。

計算前提

  • 加入年齢: 30歳
  • 性別: 男性
  • 保険金額:1,000万円
  • 保険期間:10年
  • 予定死亡率:生保標準生命表2018(死亡保険用)
  • 予定利率:2%

なお、保険料は年初払い、保険金は年度末払いとします。

脱退残存表とキャッシュフロー

10万人が一斉に保険加入したと仮定し、10年間の「収入(保険料)」と「支出(保険金)」の割引現在価値を算出します。以下の表は、10万人の生存・死亡推移と、それに伴うお金の動き(キャッシュフロー)をシミュレーションしたものです。

年度 生存者数 死亡者数 保険料現価 保険金現価
1 100,000 68 \( 100,000 \) \( 68 \times \frac{1}{1.02} \)
2 99,932 69 \( 99,932 \times \frac{1}{1.02} \) \( 69 \times \frac{1}{1.02^2} \)
3 99,863 70 \( 99,863\times \frac{1}{1.02^2} \) \( 70 \times \frac{1}{1.02^3} \)
4 99,793 72 \( 99,793\times \frac{1}{1.02^3} \) \( 72 \times \frac{1}{1.02^4} \)
5 99,721 74 \( 99,721\times \frac{1}{1.02^4} \) \( 74 \times \frac{1}{1.02^5} \)
6 99,647 77 \( 99,647\times \frac{1}{1.02^5} \) \( 77 \times \frac{1}{1.02^6} \)
7 99,571 83 \( 99,571\times \frac{1}{1.02^6} \) \( 83 \times \frac{1}{1.02^7} \)
8 99,488 90 \( 99,488\times \frac{1}{1.02^7} \) \( 90 \times \frac{1}{1.02^8} \)
9 99,399 98 \( 99,399\times \frac{1}{1.02^8} \) \( 98 \times \frac{1}{1.02^9} \)
10 99,300 108 \( 99,300\times \frac{1}{1.02^9} \) \( 108 \times \frac{1}{1.02^{10}} \)

※ キャッシュフローの数値は保険料(P) = 1、保険金額 = 1とした場合の係数です。

純保険料の計算

収入(保険料)の割引現在価値

収入の割引現在価値は、保険料現価の列をすべて合計して、

\[ \begin{aligned} \text{収入の割引現在価値} &= (100,000+99,932 \times \frac{1}{1.02}+\dotsb +99,300\times \frac{1}{1.02^9}) \times P \\ &= 913,327 \times P \end{aligned} \]

支出(保険金)の割引現在価値

保険金の割引現在価値は、保険金現価の列をすべて合計して、

\[ \begin{aligned} \text{保険金の割引現在価値} &= ( 68 \times \frac{1}{1.02}+69 \times \frac{1}{1.02^2}+ \dotsb + 108 \times \frac{1}{1.02^{10}}) \times 1,000\text{万円} \\ &= 721 \times 1,000\text{万円} \end{aligned} \]

純保険料の計算結果

\[ \begin{aligned} & 913,327 \times P = 721 \times 1,000\text{万円} \\ & \Rightarrow P = 7,900 \text{円} \\ \end{aligned} \]

純保険料は、年間7,900円という計算結果となりました。

責任準備金の計算

純保険料の割引現在価値

第8年度以降の純保険料の割引現在価値は、次のように計算できます。

\[ \begin{aligned} \text{純保険料の割引現在価値} &= (99,488 +99,399 \times \frac{1}{1.02}+ 99,300\times \frac{1}{1.02^2}) \times 7,900\text{円} \\ &= 292,382 \times 7,900\text{円} \end{aligned} \]

保険金の割引現在価値

第8年度以降の保険金の割引現在価値は、次のように計算できます。

\[ \begin{aligned} \text{保険金の割引現在価値} &= ( 90 \times \frac{1}{1.02}+98 \times \frac{1}{1.02^2} + 108 \times \frac{1}{1.02^{3}}) \times 1,000\text{万円} \\ &= 284 \times 1,000\text{万円} \end{aligned} \]

責任準備金の計算結果

\[ \begin{aligned} \text{責任準備金} &= 284 \times 1,000\text{万円} – 292,382 \times 7,900\text{円} \\ &= 530,182,200 \text{円} \\ \end{aligned} \]

責任準備金は、530,182,200円という計算結果となりました。

ただし、この金額は計算基準日時点の被保険者全体に対する金額ですので、1人当たりの金額に換算する必要があります。

\[ \begin{aligned} \text{1人当たりの責任準備金} &= \frac{530,182,200\text{円}}{99,488\text{人}} \\ &= 5,300 \text{円} \\ \end{aligned} \]

つまり、保険会社は第8年度以降の保険金支払いのために、被保険者1人当たり5,300円の責任準備金を積み立てていることになります。

責任準備金の推移

※ 加入年齢:60歳男性、保険期間:10年(定期保険を選択した場合)を仮定。保険金額1に対する責任準備金を表示している。

図は保険期間の全期間にわたる責任準備金の推移を示したものです。保険料は毎年一定額を受け取るのに対して、高齢になるほど保険金支払いは増えていきます。したがって、責任準備金は増えていく保険金支払いを賄うために、経過ごとに増加していきます。

ただし、商品によって推移は大きく異なります。定期保険は途中まではその理由で責任準備金が増えていきますが、途中から減少に転じて保険期間の満了日において責任準備金は0円になります。終身保険は保険期間の全期間にわたって、単調に責任準備金が増加していきます。

責任準備金の計算に使用する計算基礎率

責任準備金の計算に使用する予定死亡率と予定利率は法律によって定められています。

予定死亡率

予定死亡率には、日本アクチュアリー会が作成している生保標準生命表を使用します。

生保標準生命表は、保険会社各社から集めた経験データをもとに男女・年齢別の死亡率を算出したものです。標準的な保険会社が男女それぞれ100万件の契約を保有しているという前提のもと数学的な危険論に基づいた安全割増が設定されています。

予定利率

予定死亡率には、日本アクチュアリー会が作成している生保標準生命表を使用します。

予定利率は、法律に計算方法が明確に定義されており、保険会社各社がそのルールに従って自分自身で計算します。

計算方法は複雑ですが、簡単にいうと、過去の国債利回りの平均値をベースに安全のため少し低くした値です。

責任準備金と保険料の計算基礎率の関係

保険料は予定死亡率や予定利率などの計算基礎率を使って計算されています。責任準備金も同様に、予定死亡率や予定利率などの計算基礎率を用いて計算されます。

ここで、保険料と責任準備金の計算基礎率は同じである必要はありません。日本の場合、保険料は金融庁の認可取得のもと保険会社が自由に設定できますが、責任準備金は予定利率や予定死亡率について法律上の定めがあります。したがって、保険料と責任準備金の計算基礎率は直接的な関係はありません。

しかし、全く無関係というわけではなく、保険料は責任準備金の計算基礎率に影響を受けます。なぜなら、保険料の計算基礎率を責任準備金の計算基礎率と異なる値とした場合、保険会社は受け取った保険料以上の金額を責任準備金として積み立てる必要が生じるためです。

計算前提

先ほどの終身保険を例にして考えます。

ケースA

  • 予定死亡率: 生保標準生命表2018(死亡保険用)
  • 予定利率: 0.5%

ケースB

  • 予定死亡率: 生保標準生命表2018(死亡保険用)×0.7
  • 予定利率: 2.0%

計算結果

Aは法令に定める通りに責任準備金を計算したケース、Bは保険料計算基礎率を使って責任準備金を計算したケースを想定しています。責任準備金の計算基礎率と保険料の計算基礎率を異なる値とした場合、保険会社が契約者より受領した保険料から無理なく積み立てられる金額がBであるにもかかわらず、法令上Aの積立金を積み立てる必要があります。AとBの間に生じた差額は保険会社の純資産から充当する必要があり、差額が大きいと保険会社の経営を圧迫します。

責任準備金の計算基礎率は加入時点でロックインされ、その後、契約期間中見直されることはありません。したがって、保険会社は責任準備金の計算基礎率を意識しながら、保険料の設定を行うこととなります。

責任準備金の計算基礎率が変わるタイミングを意識する

責任準備金の計算基礎率が変わるタイミングで、保険料が安く・高くなる可能性があります。

予定死亡率

日本アクチュアリー会は毎年死亡率の状況をモニタリングし、死亡率の水準が大きく乖離していないか確認しています。乖離が大きい場合は、生保標準生命表の見直しが必要と判断し、改訂を実施します。直近では2018年に生保標準生命表の見直しを行いました。前々回の作成が2007年、さらにその前が1998年なので、おおむね10年ごとに作成されていることとなります。したがって、順当にいけば次回の作成は2028年頃です。

コロナ禍等の影響で一時的に日本人の死亡率は上がっていますが、それでも今のところ死亡率は改善傾向にあり、改定後の予定死亡率は現在の死亡率よりも低くなることが予想されます。その場合、死亡保険の保険料は現在よりも低くなり、逆に医療保険の保険料は高くなります。そのため、死亡保険に関しては加入を急がない人は少し待ってから加入すると得になる可能性があり、逆に医療保険の場合は改定前に加入した方が得になる可能性があります。

予定利率

予定利率は平準払は毎年、一時払は四半期ごとに見直されます。一時払の更新頻度は高く、また直近の金利動向をタイムリーに反映しているので、気にする必要はありません。一方で、平準払は更新頻度が低く、また直近の金利動向がすぐには予定利率に反映されず、タイムラグが生じる計算式になっている点に注意する必要があります。

定期保険など予定利率の影響が小さい商品であれば気にする必要はないですが、終身保険など貯蓄性商品の購入を検討している場合は、ここ数年の金利上昇が予定利率に反映されるまで数年待ってから加入した方がお得になる可能性があります。

まとめ

  • 責任準備金は、将来の保険金支払を確実に行うための積立金
  • 責任準備金の計算は、将来の保険金現価から保険料現価を差し引いて行う
  • 法令によって計算方法や計算の基礎となる予定死亡率と予定利率が定められている
  • 計算基礎率は保険料計算と責任準備金計算で異なってもよい

いま保障が必要な方は計算基礎率の更新を待たずに加入すべきと思いますが、保険加入が急ぎではなく、数年待っても問題ない方は計算基礎率の更新タイミングを意識して保険加入すると保険料を低く抑えられる可能性があります。