【アクチュアリーが解説】貯蓄性保険は国債より得?リターン比較でわかる加入判断のポイント

     

貯蓄性保険は国債より得?リターン比較でわかる加入判断のポイント

国債利回りを基準に、保険商品のメリットとリスクを徹底検証

貯蓄性商品とは、保険でありながら「お金を貯める」要素を持つ商品です。たとえば終身保険は、死亡したときに保険金が支払われると同時に、長く加入すれば積立効果も期待できます。加入直後に万が一亡くなっても満額の保険金が支払われるという保障機能もありますが、ここでは「貯蓄を目的とする場合」に焦点を当てましょう。

結論から言えば、貯蓄性商品を買うかどうかは国債利回りとの比較で決めるのが基本です。

国債利回りが重要な理由

国債とは政府が発行する債券で、購入すると毎年利息を受け取り、満期には元本が戻ってきます。 政府は徴税権や通貨発行権を持っているため、他の投資商品と比べても信用度が極めて高く、リスクはほぼゼロといえます。

一方で、世の中にはさまざまな投資商品があります。

  • 社債:会社が発行する債券。仕組みは国債と似ていますが、会社が破産すれば元本が返ってこない「信用リスク」があります。その分、利回りは国債より高く設定されます。
  • 株式:会社の所有権の一部。利益が出れば配当を受け取れ、値上がり益も期待できますが、事業が失敗すれば投資額を失うリスクもあります。社債よりもリスクは大きいですが、リターンの可能性は青天井です。

つまり、リスクが大きいほど期待リターンも大きいというのが投資の基本構造です。 そして、リスクに応じて調整したリターンを「リスク調整済リターン」と呼びます。

国債のリスクはほぼゼロなので、「国債利回り」=リスク調整済リターンの基準値と考えることができます。

投資判断の最低条件

投資を検討する際には、まず「リスク調整済リターン」が国債利回りを上回るかどうかを確認することが重要です。国債はほぼリスクゼロで一定の利回りが得られるため、これを基準値と考えることができます。

例えば、ある投資の期待リターンが国債利回りと同じかそれ以下であれば、ほとんどリスクを取らずに国債を保有する方が合理的です。逆に、リスクを取ることによって国債利回りを上回るリターンが見込める場合には、投資を検討する価値があるといえます。

つまり、「国債利回りを下回る投資は基本的に避ける」という考え方が、投資判断の最低条件の一つとなります。

貯蓄性商品のリスク

では、保険の貯蓄性商品はどんなリスクを持っているのでしょうか。

保険会社の信用リスク

保険会社は厳しい資本規制の下にあり、また万が一倒産しても契約者保護機構により多くの資産が補償されます。そのためリスクは非常に小さいですが、過去には中堅生命保険会社が破綻した事例もあるため、ゼロではありません。

流動性リスク

国債は市場でいつでも売却できますが、保険は解約返戻金という形でしか引き出せません。特に契約初期に解約すると返戻金がほとんどない場合もあり、自由に現金化しにくい点がデメリットです。

貯蓄性商品のリターンと国債利回りの関係

以上を踏まえると、貯蓄性商品のリターンは「国債利回り+α」程度であってほしいといえます。もしそれを下回るなら、購入を再検討すべきです。

保障が必要なら保障性商品を選び、貯蓄は国債や他の投資商品で行うという方法もあります。大事なのは「保険を選ぶ前に国債利回りと比較する」という視点です。

よく「今は予定利率が低いから、貯蓄性商品を買う意味がない」と言われることがあります。しかし、これは必ずしも正しくありません。

なぜなら、予定利率が高かった時期には、国債利回りもそれ以上に高かったからです。つまり、予定利率そのものを絶対値で比較しても意味はなく、常に国債利回りとの相対的な関係で評価する必要があります。

この観点で見ると、貯蓄性商品の予定利率と国債利回りの相対関係は、昔も今も大きく変わっていないのです。

保険と国債のリターン比較(具体例)

まずは計算条件を整理します。

  • 保険期間:10年
  • 保険料:1万円(年払、期初払い)
  • 保険金:11万円(満期時)
  • 加入日:2025年3月31日
年度 国債金利(%) 期首割引率 期末割引率 保険料(円) 保険金(円) 保険料の現在価値(円) 保険金の現在価値(円)
10.641.0000.99410,000010,0000
20.850.9940.98310,00009,9360
30.890.9830.97410,00009,8310
41.020.9740.96010,00009,7390
51.110.9600.94610,00009,6030
61.140.9460.93410,00009,4620
71.200.9340.92010,00009,3410
81.290.9200.90310,00009,2000
91.390.9030.88310,00009,0280
101.500.8830.86210,000110,0008,83194,811
合計 100,000 110,000 94,970 94,811

受け取れる保険金(110,000円)は支払った保険料の単純合計(100,000円)を上回っています。しかし、国債利回りで各年度の収支を現在価値に換算すると、受け取る保険金の現在価値(94,811円)は支払った保険料の現在価値(94,970円)を下回っています。 つまり、この保険の利回りは国債の利回り以下であり、加入する価値は乏しいといえます。

※ 国債金利には期間構造があり、短期・中期・長期で金利が異なります。本例では各年の国債金利を用いて割引計算しています。

※ 割引率とは、将来のキャッシュフローを現在の価値に換算するための係数です。将来のお金の価値は、割引率を掛けることで加入時点の価値に換算されます。

国債利回りの確認方法

国債利回りは財務省のホームページで公表されています。最新の利回りを知りたいときは、財務省の「国債金利情報」のページにアクセスすると、年限ごとの利回りを確認することができます。

生命保険や投資商品の利回りと比較する際には、この数値を参考にするとよいでしょう。

まとめ

  • 国債利回り = リスクゼロで得られる利回り。投資判断の基準値として活用。
  • 貯蓄性商品から得られるリターン > 国債利回りの場合は保険に加入する価値がある。それ以外の場合はほかの投資手段を検討する。

まずは、国債利回りを基準にリスクとリターンを整理することから始めましょう。