【アクチュアリーが解説】責任準備金の計算基礎率変更が保険料に与える影響とは?

     

責任準備金の計算基礎率変更が保険料に与える影響とは?

責任準備金の仕組みと計算基礎率の改定タイミングを知れば、数十万円単位で保険料が変わる可能性があります。

責任準備金という言葉をご存じでしょうか。

これは保険会社が将来の支払いに備えて積み立てる仕組みですが、その計算に使われる死亡率や利率(計算基礎率)が、実はあなたの保険料にも間接的に影響しています。 計算基礎率が変わると、加入するタイミングによっては、同じ保障内容でも将来支払う保険料総額が数十万円単位で変わることもあります。

この記事では、責任準備金の基本的な考え方と、基礎率の変更が私たちの保険料にどのように影響するのかを、わかりやすく解説していきます。

責任準備金とは?

責任準備金は保険会社が将来の給付のために積み立てている貯金です。 責任準備金は将来支払う保険金をすべて現在の価値に換算した金額から将来受け取る保険料をすべて現在の価値に換算した金額を差し引いて算出されます。

責任準備金= 保険金現価-保険料現価

ここでいう保険料は純保険料のことです。つまり、責任準備金の計算において保険会社の経費に対応する付加保険料は考慮しません。

責任準備金の推移

※ 加入年齢:60歳男性、保険期間:10年(定期保険)を仮定。保険金額1に対する責任準備金を表示している。

図は保険期間の全期間にわたる責任準備金の推移を示したものです。保険料は毎年一定額を受け取るのに対して、高齢になるほど保険金支払いは増えていきます。したがって、責任準備金は増えていく保険金支払いを賄うために、経過ごとに増加していきます。

ただし、商品によって推移は大きく異なります。定期保険は途中まではその理由で責任準備金が増えていきますが、途中から減少に転じて保険期間の満了日において責任準備金は0円になります。終身保険は保険期間の全期間にわたって、単調に責任準備金が増加していきます。

責任準備金と保険料の計算基礎率の関係

保険料は予定死亡率や予定利率などの計算基礎率を使って計算されています。責任準備金も同様に、予定死亡率や予定利率などの計算基礎率を用いて計算されます。

ここで、保険料と責任準備金の計算基礎率は同じである必要はありません。日本の場合、保険料は金融庁の認可取得のもと保険会社が自由に設定できますが、責任準備金は予定利率や予定死亡率について法律上の定めがあります。したがって、保険料と責任準備金の計算基礎率は直接的な関係はありません。

しかし、全く無関係というわけではなく、保険料は責任準備金の計算基礎率に影響を受けます。なぜなら、保険料の計算基礎率を責任準備金の計算基礎率と異なる値とした場合、保険会社は受け取った保険料以上の金額を責任準備金として積み立てる必要が生じるためです。

計算前提

先ほどの終身保険を例にして考えます。

ケースA

  • 予定死亡率: 生保標準生命表2018(死亡保険用)
  • 予定利率: 0.5%

ケースB

  • 予定死亡率: 生保標準生命表2018(死亡保険用)×0.7
  • 予定利率: 2.0%

計算結果

Aは法令に定める通りに責任準備金を計算したケース、Bは保険料計算基礎率を使って責任準備金を計算したケースを想定しています。責任準備金の計算基礎率と保険料の計算基礎率を異なる値とした場合、保険会社が契約者より受領した保険料から無理なく積み立てられる金額がBであるにもかかわらず、法令上Aの積立金を積み立てる必要があります。AとBの間に生じた差額は保険会社の純資産から充当する必要があり、差額が大きいと保険会社の経営を圧迫します。

責任準備金の計算基礎率は加入時点でロックインされ、その後、契約期間中見直されることはありません。したがって、保険会社は責任準備金の計算基礎率を意識しながら、保険料の設定を行うこととなります。

責任準備金の計算基礎率が変わるタイミングを意識する

責任準備金の計算基礎率が変わるタイミングで、保険料が安く・高くなる可能性があります。

予定死亡率

責任準備金の計算において、予定死亡率は日本アクチュアリー会が作成しています。前回作成されたのが2018年で毎年死亡率の状況をモニタリングし、改訂の必要が生じれば改訂されます。前々回の作成が2007年、さらにその前が1998年なので、おおむね10年ごとに作成されていることとなります。したがって、順当にいけば次回の作成は2028年頃です。

コロナ禍等の影響で一時的に日本人の死亡率は上がっていますが、それでも今のところ死亡率は改善傾向にあり、改定後の予定死亡率は現在の死亡率よりも低くなることが予想されます。その場合、死亡保険の保険料は現在よりも低くなり、逆に医療保険の保険料は高くなります。そのため、死亡保険に関しては加入を急がない人は少し待ってから加入すると得になる可能性があり、逆に医療保険の場合は改定前に加入した方が得になる可能性があります。

予定利率

予定利率は法律に詳細な作成方法が明記されており、各社がその作成方法に基づいて作成しています。

予定利率は平準払は毎年、一時払は四半期ごとに見直されます。一時払の更新頻度は高く、また直近の金利動向をタイムリーに反映しているので、気にする必要はありません。一方で、平準払は更新頻度が低く、また直近の金利動向がすぐには予定利率に反映されず、タイムラグが生じる計算式になっている点に注意する必要があります。定期保険など予定利率の影響が小さい商品であれば気にする必要はないですが、終身保険など貯蓄性商品の購入を検討している場合は、ここ数年の金利上昇が予定利率に反映されるまで数年待ってから加入した方がお得になる可能性があります。

まとめ

  • 責任準備金は保険会社が将来の保険金支払いのために積み立てている貯金。
  • 責任準備金の計算基礎率は間接的に保険料に影響している。
  • 責任準備金の計算基礎率は保険料の変動要因であり、改訂タイミングを意識することで数十万円単位の差が生まれる可能性がある。

いま保障が必要な方は計算基礎率の更新を待たずに加入すべきと思いますが、保険加入が急ぎではなく、数年待っても問題ない方は計算基礎率の更新タイミングを意識して意思決定すると良いと思います。