【アクチュアリーが解説】予定平均入院日数の作成方法

     

予定平均入院日数の作成方法

純保険料計算ツールで使用した予定平均入院日数の作成方法を説明します。

予定平均入院日数は医療保険の純保険料を計算する際に使用します。

この記事では、当サイトが提供している『純保険料計算ツールVer 1.0.1以降』で使用している予定平均入院日数の作成方法について説明します。

予定平均入院日数とは?

医療保険の保険料を計算するには、入院がどのくらいの期間発生するのかを知る必要があります。これを表すのが予定平均入院日数です。

予定平均入院日数とは、「1回の入院で平均して何日入院するか」を年齢ごとにまとめた値です。保険料の計算では、入院の回数(予定入院発生率)だけでなく、入院1回あたりの日数も掛け合わせることで、1年間にどれくらいの入院日数が発生するかを見積もります。

数式で表すと次のようになります。
1年間の平均入院日数 = 予定入院発生率 × 1回あたりの平均入院日数

例えば、ある年齢の人が年間0.2回入院し、1回の入院が平均5日間だとすると、1年間の平均入院日数は
0.2 × 5 = 1日 となります。

入院の平均日数が長くなるほど、医療保険の給付も増えるため、保険料は高くなる傾向があります。予定平均入院日数は、保険会社が将来の給付を見積もる上で非常に重要な指標です。

作成過程の概要

当サイトでは、予定平均入院日数の作成にあたって、国が実施する令和5年度 患者調査をもとにした基本値に、民間医療保険の給付実態に即した調整を加えています。以下にその内容を示します。

基本的な平均入院日数の算出

まず、令和5年度患者調査における総入院日数を入院件数で割って、各年齢群団ごとの予定平均入院日数を算出しました。代表年齢間は線形補間でなめらかにつないでいます。

給付対象外の入院を除外

民間医療保険では治療を目的としない入院には給付されないため、以下の入院は入院日数の集計から除外しています。

  • 単胎正常分娩
  • 先天奇形、変形および染色体異常
  • 健康状態に影響を及ぼす要因や保健サービスの利用

入院日数の補正

患者調査では通常「何泊したか」で入院日数をカウントしていますが、民間医療保険の給付は「病院に滞在した日数」で決まるため、集計値に+1日を加えて補正しています。

給付上限の反映

保険約款で定められた1回あたりの給付日数上限を反映しています。上限を超える入院は上限日数として扱います。 (例:入院期間が6ヶ月〜1年で給付上限が60日の場合、その入院は60日としてカウントします。)

転院・再入院の除外

転院や所定日数内の再入院は、民間医療保険の実務に合わせて1回の入院として扱い、日数集計を調整しています。

基礎データについて

予定平均入院日数の算出には、令和5年度 患者調査(Z116)のデータを使用しています。

患者調査とは、厚生労働省が全国の病院・診療所を対象に実施する統計調査で、医療施設を利用した患者の入院・外来の実態や傷病構成を把握することを目的としています。

調査では、医療機関を利用した患者について「入院か外来か」「入院期間」「入院原因(疾病/傷害)」「退院後の行き先」などが記録されます。これにより、年齢別・性別・傷病別の入院日数や入院件数を取得できます。

令和5年度調査では、9月1日~30日までの1か月間に退院した患者を対象としています。

このようにして取得された総入院日数および入院件数を用いることで、各年齢の予定平均入院日数を推定するための基礎としています。

代表年齢の設定

患者調査では、年齢を1歳ごとではなく、複数歳をまとめた「年齢群団」単位で統計が公表されています。 たとえば「5~9歳」「10~14歳」といったように、数歳ごとにグループ分けされているのが特徴です。

本サイトでは、各年齢群団に対して「代表年齢(=その群団を代表する1つの年齢)」を設定し、該当する群団の平均入院日数をその代表年齢に対応させています。 この処理により、年齢ごとのなめらかな予定平均入院日数を推定できるようになります。

年齢群団 代表年齢
0歳0
1~4歳2
5~9歳7
10~14歳12
15~19歳17
20~24歳22
25~29歳27
30~34歳32
35~39歳37
40~44歳42
45~49歳47
50~54歳52
55~59歳57
60~64歳62
65~69歳67
70~74歳72
75~79歳77
80~84歳82
85~89歳87
90歳以上92

粗平均入院日数の算出

予定平均入院日数を求めるにあたって、まずは国民全体における「粗平均入院日数」を計算します。これは、特定の年齢・性別における入院1回あたりの平均日数を示す数値です。

入院日数データの集計

令和5年度患者調査のデータから、男女・代表年齢ごとの総入院日数と入院件数を集計します。このとき、民間医療保険の給付対象外となる入院は集計から除外しています。

  • 単胎正常分娩
  • 先天奇形、変形および染色体異常による入院
  • 健康状態に影響を及ぼす要因や保健サービスの利用

入院日数の補正とグルーピング

患者調査では入院日数を「15-19日」のように幅を持たせて集計しています。その場合は、おおむね中央値で入院日数を代表させています。

また、患者調査では入院日数を「何泊したか」で記録していますが、民間医療保険の給付は「病院に滞在した日数」で決まるため、集計値に+1日を加えて補正しています。例えば、日帰り入院の場合、患者調査では入院日数ゼロとして集計されますが、民間医療保険では入院1日分の給付金が支払われます。

補正後の入院日数は、民間医療保険における給付条件に合わせてグルーピングし、平均値を算出しています。

ここでいう「給付条件」とは、民間医療保険の商品設計上の入院日数の上限を指します。保険契約では、1回の入院で支払う給付日数の上限があらかじめ定められており、例えば上限が60日の場合、入院日数が70日であっても給付金は60日分しか支払われません。そのため、平均入院日数を計算する際には、入院日数が給付上限を超える分は総入院日数の計算から除外し、上限日数でカウントします。

患者調査の入院日数 入院日数の代表値 補正後入院日数 給付上限反映後の入院日数(60日型)
0日011
1日122
2日233
3日344
4日455
5日566
6日677
7日788
8日899
9日91010
10日101111
11日111212
12日121313
13日131414
14日141515
15-19日171818
20-24日222323
25-29日272828
30-39日34.535.535.5
40-49日44.545.545.5
50-60日555656
2月-75.576.560
3月-105.5106.560
4月-135.5136.560
5月-165.5166.560
6月-27327460
1年-455.5456.560
1年6月-63863960
2年-91391460
3年-1278127960
4年-1643164460
5年以上2008200960

粗平均入院日数の算出(年齢・性別別)

入院件数で補正済みの入院日数を割ることで、年齢・性別ごとの粗平均入院日数を求めます。数式で表すと次の通りです:

\[ \text{粗平均入院日数} = \frac{\text{給付上限反映後の入院日数の合計}}{\text{入院件数の合計}} \]

この算出により、1回あたりの平均入院日数の基礎値を得ることができます。

転院・再入院を考慮した入院日数の補正

転院・再入院に対する仮定

民間医療保険においては、転院・入院インターバル期間中の再入院による複数回入院は1回の入院として通算して扱われます。一方で、患者調査では転院・再入院があった場合、別々の入院として集計されています。この違いを反映するため、ここでは以下の仮定に基づき補正を行います。

  • 2回目以降の入院日数は1回目の入院日数と同じ分布を持つと仮定する。

この前提に基づき、全ての組み合わせ(1回目の入院日数 × 2回目の入院日数)を作成し、2回の入院が通算された場合の平均入院日数を算出しています。

転院・再入院率による加重平均

転院・再入院を考慮した平均入院日数は、次の式で求められます:

\[ \text{平均入院日数} = (1 – \text{転院・再入院率}) \times \text{入院1回の平均入院日数} + \text{転院・再入院率} \times \text{入院2回の平均入院日数} \]

  

転院・再入院率とは、退院患者が転院する、または入院インターバル期間中に再入院する確率のことです。この値は、予定入院発生率の作成過程で得られた数値を用いています。

これにより、1回の入院のみの場合と、2回目の入院が発生した場合の両方を加味した、より実態に即した平均入院日数を得ることができます。

線形補間と線形補外

代表年齢以外の年齢における予定入院日数を線形補間・線形補外により求めました。

補間(線形補間)

補間とは、既に分かっている年齢 A と年齢 B の値を直線で結び、その直線上の点を使って A と B の間の値を推定する方法です。例えば代表年齢が \(a\) と \(b\)、対応する値が \(x_a, x_b\) のとき、年齢 \(x\)の値は次で与えます。

\[ q_{(x)} = x_a + (x_b – x_a)\frac{x – a}{b – a}. \]

補外(線形補外)

補外とは、既知データの範囲の外側を、範囲内の直近2点の傾きで延長して埋める方法です。既知点が \( (a, x_a) \) と \( (b, x_b) \)で、これより外側の点 \(y>b\) の値は次のように計算します。

\[ q_{(y)} = x_b + \frac{x_b-x_a}{b-a}\cdot (y-b). \]

留意点

予定平均入院日数の作成にあたっては、利用可能なデータの範囲で最善を尽くしましたが、以下のような課題が残っています。

  • 患者調査は千人単位で公表されているため、人数が「0.0千人」と表示されていても実際には0~49人の患者が存在する可能性があります。人数の少ない区分ほど、この端数処理の影響を強く受け、不確実性が高まります。
  • 患者調査は1か月間のデータに基づいており、疾病ごとの患者数には季節変動の影響が反映されていません。
  • 転院・再入院によって通算される入院は2回までとし、3回以上の入院が通算されるケースは想定していません。

作成過程(数値編)

平均入院日数の計算例

女性・32歳が1度入院した場合を例に平均入院日数の計算例を示します。

 
性別 年齢 入院日数 給付上限反映後の入院日数(60日型) 入院総数(千人) 単胎正常分娩(千人) 先天奇形等(千人) 保健サービスの利用等(千人) 有効入院数(千人) 総入院日数(千日)
女性32111.9000.11.81.8
女性32222.60.100.32.24.4
女性32331.90.100.11.75.1
女性32441.40.200.11.14.4
女性32555.2300.12.110.5
女性32666.53.800.12.615.6
女性32774.21.900.12.215.4
女性32882.50.600.11.814.4
女性32991.80.2001.614.4
女性3210100.90000.99
女性3211110.40000.44.4
女性3212120.30000.33.6
女性3213130.20000.22.6
女性3214140.20000.22.8
女性3215150.20000.23
女性3218180.50000.59
女性3223230.30000.36.9
女性3228280.30000.38.4
女性3235.535.50.40000.414.2
女性3245.545.50.20000.29.1
女性3256560.10000.15.6
女性3276.5600.20000.212
女性32106.5600.10000.16
女性32136.560000000
女性32166.560000000
女性3227460000000
女性32456.560000000
女性3263960000000
女性3291460000000
女性32127960000000
女性32164460000000
女性32200960000000
合計 21.4 182.6

総入院日数は給付上限反映後の入院日数×有効入院数として計算しています。総入院日数が182.6千日であるのに対して、入院患者数は21.4千人であるため、1入院あたりの平均入院日数は8.53271日(=182.6 / 21.4)です。

その他の性別・年齢・入院回数であっても同じ方法で平均入院日数を計算することができます。

平均入院日数の計算結果

性別 年齢 平均入院日数(入院1回) 平均入院日数(入院2回) 転院率 再入院率 予定平均入院日数
女性08.5000016.759550.043860.068329.42658
女性25.1381010.275190.009800.067635.53590
女性74.721319.442620.016670.089535.22271
女性128.5222216.686420.024390.121489.71312
女性179.4545518.451330.030770.1215110.82456
女性228.7149517.027080.038460.048059.43406
女性278.4417216.618500.030300.048099.08271
女性328.5327116.775960.018960.057479.16270
女性378.7524017.093820.014560.057459.35309
女性429.1898417.896170.027620.1335010.59267
女性479.8779319.134700.042250.1321011.49189
女性5211.1165421.315050.041830.1827613.40693
女性5712.2943323.404330.003570.1731414.25762
女性6212.3478323.555400.043210.1877814.93662
女性6713.5048825.532410.051220.1753516.22999
女性7215.1319328.170460.063160.1630718.08166
女性7717.0184731.123960.078780.1607520.39719
女性8220.5734836.311590.105260.1080723.93099
女性8724.3011441.380380.129890.1078128.36077
女性9227.1228344.955110.130600.0689430.68105
男性08.7737217.218610.037040.082419.78244
男性24.725199.450380.007750.081515.14696
男性74.164718.329410.023530.107454.71018
男性127.0083313.794720.016950.125597.97569
男性178.1282116.028110.025970.125619.32574
男性228.1473716.028920.021510.068228.85452
男性278.7125017.081250.025640.068209.49787
男性329.8488418.962010.035710.0824810.92593
男性379.8238119.018870.037740.0762510.87193
男性4210.9460420.986390.058390.0912512.44854
男性4711.9787722.748310.066670.0873413.63732
男性5212.0441222.899330.059410.1219414.01271
男性5712.5176223.715690.002710.1200813.89267
男性6212.6591424.041190.056160.1562115.07632
男性6713.3134225.149370.056010.1583515.85056
男性7214.1452526.540720.063740.1692517.03329
男性7715.3826828.560750.077940.1726018.68421
男性8217.7637832.231730.098310.1269721.02304
男性8721.5298937.777500.117070.1267025.49068
男性9225.1449142.500540.122720.0858528.76474
 

これらの図表は入院インターバル・給付上限がいずれも60日のケースを表示したものです。