予定平均入院日数の作成方法
純保険料計算ツールで使用した予定平均入院日数の作成方法を説明します。
予定平均入院日数は医療保険の純保険料を計算する際に使用します。
この記事では、当サイトが提供している『純保険料計算ツールVer 1.0.3以降』で使用している予定平均入院日数の作成方法について説明します。
予定平均入院日数とは?
医療保険の保険料を計算するには、入院がどのくらいの期間発生するのかを知る必要があります。これを表すのが予定平均入院日数です。
予定平均入院日数とは、「1回の入院で平均して何日入院するか」を年齢ごとにまとめた値です。保険料の計算では、入院の回数(予定入院発生率)だけでなく、入院1回あたりの日数も掛け合わせることで、1年間にどれくらいの入院日数が発生するかを見積もります。
数式で表すと次のようになります。
1年間の平均入院日数 = 予定入院発生率 × 1回あたりの平均入院日数
例えば、ある年齢の人が年間0.2回入院し、1回の入院が平均5日間だとすると、1年間の平均入院日数は
0.2 × 5 = 1日
となります。
入院の平均日数が長くなるほど、医療保険の給付も増えるため、保険料は高くなる傾向があります。予定平均入院日数は、保険会社が将来の給付を見積もる上で非常に重要な指標です。
作成過程の概要
当サイトでは、予定平均入院日数の作成にあたって、国が実施する令和5年度 患者調査をもとにした基本値に、民間医療保険の給付実態に即した調整を加えています。以下にその内容を示します。
基本的な平均入院日数の算出
まず、令和5年度患者調査における総入院日数を入院件数で割って、各年齢群団ごとの予定平均入院日数を算出しました。代表年齢間は線形補間でなめらかにつないでいます。
ただし、患者調査は統計数値を千人単位に変換の上、小数点以下第2位を四捨五入して小数点以下第1位まで表示しています。そのため、例えば「0.1千人」と表示されている場合、実際には50人から149人までの間の不確実性があります。そこで、ベイズ統計を用いた補正を行いました。
また、民間医療保険では、給付の対象が「治療を目的とした入院」に限定されていることが多いため、次のような入院は集計から除外しています。
- 単胎正常分娩
- 先天奇形、変形および染色体異常
- 健康状態に影響を及ぼす要因および保健サービスの利用
入院日数の補正
患者調査では通常「何泊したか」で入院日数をカウントしていますが、民間医療保険の給付は「病院に滞在した日数」で決まるため、集計値に+1日を加えて補正しています。
給付上限の反映
保険約款で定められた1回あたりの給付日数上限を反映しています。上限を超える入院は上限日数として扱います。 (例:入院期間が6ヶ月〜1年で給付上限が60日の場合、その入院は60日としてカウントします。)
転院・再入院の除外
転院や所定日数内の再入院は、民間医療保険の実務に合わせて1回の入院として扱い、日数集計を調整しています。
基礎データについて
予定平均入院日数の算出には、令和5年度 患者調査(Z116、Z110、Z83)のデータを使用しています。
患者調査とは、厚生労働省が全国の病院・診療所を対象に実施する統計調査で、医療施設を利用した患者の入院・外来の実態や傷病構成を把握することを目的としています。
調査では、医療機関を利用した患者について「入院か外来か」「入院期間」「入院原因(疾病/傷害)」「過去の入院歴」などが記録されます。これにより、年齢別・性別・傷病別の入院日数や入院件数を取得できます。
令和5年度調査では、9月1日~30日までの1か月間に退院した患者を対象としています。
このようにして取得された総入院日数および入院件数を用いることで、各年齢の予定平均入院日数を推定するための基礎としています。
代表年齢の設定
患者調査では、年齢を1歳ごとではなく、複数歳をまとめた「年齢群団」単位で統計が公表されています。 たとえば「5~9歳」「10~14歳」といったように、数歳ごとにグループ分けされているのが特徴です。
本サイトでは、各年齢群団に対して「代表年齢(=その群団を代表する1つの年齢)」を設定し、該当する群団の平均入院日数をその代表年齢に対応させています。 この処理により、年齢ごとのなめらかな予定平均入院日数を推定できるようになります。
| 年齢群団 | 代表年齢 |
|---|---|
| 0歳 | 0 |
| 1~4歳 | 2 |
| 5~9歳 | 7 |
| 10~14歳 | 12 |
| 15~19歳 | 17 |
| 20~24歳 | 22 |
| 25~29歳 | 27 |
| 30~34歳 | 32 |
| 35~39歳 | 37 |
| 40~44歳 | 42 |
| 45~49歳 | 47 |
| 50~54歳 | 52 |
| 55~59歳 | 57 |
| 60~64歳 | 62 |
| 65~69歳 | 67 |
| 70~74歳 | 72 |
| 75~79歳 | 77 |
| 80~84歳 | 82 |
| 85~89歳 | 87 |
| 90歳以上 | 92 |
粗平均入院日数の算出
予定平均入院日数を求めるにあたって、まずは国民全体における「粗平均入院日数」を計算します。これは、特定の年齢・性別における入院1回あたりの平均日数を示す数値です。
退院患者数の補正
患者調査は統計数値を千人単位に変換の上、小数点以下第2位を四捨五入して小数点以下第1位まで表示しています。そのため、例えば「0.1千人」と表示されている場合、実際には50人から149人までの間の不確実性があります。
この不確実性に対応するため、次の2つの工夫を行いました。
入院日数6カ月超の患者数は別表から数値取得
患者調査には在院期間を32区分に分けて集計した表(Z116)と5区分に分けて集計した表(Z110)の2種類があります。
平均入院日数を正確に見積もるうえでは32区分の表を使用するのが望ましいと考えられますが、その場合、入院期間が長期にわたる患者数は極めて少なく、千人単位に変換されていることで生じる不確実性の程度は大きくなります。
そのため、基本的には32区分の表から数値を取得するものの、入院日数が6カ月超の患者数に限っては5区分の表からデータを取得することにしました。
民間医療保険は給付日数に制限を設けているため、このような対応を行っても平均入院日数の精度は損なわれません。
ベイズ統計を用いた補正
各在院日数・年齢の区分において取得可能な数値は四捨五入後の男性患者数(X)、女性患者数(Y)、合計患者数(N)の3つです。 実際の男性患者数をx、女性患者数をyとします。
患者調査は統計数値を千人単位に変換の上、小数点以下第2位を四捨五入して小数点以下第1位まで表示しています。 したがって表示値がX千人であるとき、実際の患者数x(千人単位)は
- \( I_X = [X-\delta, X+\delta) \)
- \( I_Y = [Y-\delta, Y+\delta) \)
- \( I_N = [N-\delta, N+\delta) \)
の範囲にあると考えられます。ここで四捨五入の単位が0.1千人であるため
\( \delta = 0.05 \)
とします。
以下では、xおよびyは整数値ですが、四捨五入誤差を扱うため連続変数として近似的に扱います。 また、事前分布として男性患者数と女性患者数はそれぞれ区間内で一様分布に従い、互いに独立であると仮定します。
事前密度を\( f^{prior}_{X}(x)\)、\( f^{prior}_{Y}(y)\)とすると、事後の同時密度はベイズの公式から
となります。
ここで一様事前分布を仮定しているため、事後分布は許容領域上で一様となります。
これをyで周辺化すると男性患者数の事後分布を得ることができます。
例として、男性患者数が0.0千人、女性患者数が0.0千人、合計患者数が0.1千人のケースを考えてみましょう。
実際の男性患者数が\(x\)と分かっていた時、女性患者数の取り得る値の範囲は次のようになります。
区間の長さは\(x\)であることが分かったので、これを用いて男性患者数の事後分布から実際の男性患者数が取り得る値の平均値を計算します。
以上よりこのケースでは男性患者数として0人ではなく、33人を使うとよいことがわかります。女性も同様の方法で計算が可能です。
入院日数データの集計
令和5年度患者調査のデータから、男女・代表年齢ごとの総入院日数と入院件数を集計します。このとき、民間医療保険の給付対象外となる入院は集計から除外しています。
- 単胎正常分娩
- 先天奇形、変形および染色体異常による入院
- 健康状態に影響を及ぼす要因や保健サービスの利用
入院日数の補正とグルーピング
患者調査では入院日数を「15-19日」のように幅を持たせて集計しています。その場合は、おおむね中央値で入院日数を代表させています。
また、患者調査では入院日数を「何泊したか」で記録していますが、民間医療保険の給付は「病院に滞在した日数」で決まるため、集計値に+1日を加えて補正しています。例えば、日帰り入院の場合、患者調査では入院日数ゼロとして集計されますが、民間医療保険では入院1日分の給付金が支払われます。
補正後の入院日数は、民間医療保険における給付条件に合わせてグルーピングし、平均値を算出しています。
ここでいう「給付条件」とは、民間医療保険の商品設計上の入院日数の上限を指します。保険契約では、1回の入院で支払う給付日数の上限があらかじめ定められており、例えば上限が60日の場合、入院日数が70日であっても給付金は60日分しか支払われません。そのため、平均入院日数を計算する際には、入院日数が給付上限を超える分は総入院日数の計算から除外し、上限日数でカウントします。
| 患者調査の入院日数 | 入院日数の代表値 | 補正後入院日数 | 給付上限反映後の入院日数(60日型) |
|---|---|---|---|
| 0日 | 0 | 1 | 1 |
| 1日 | 1 | 2 | 2 |
| 2日 | 2 | 3 | 3 |
| 3日 | 3 | 4 | 4 |
| 4日 | 4 | 5 | 5 |
| 5日 | 5 | 6 | 6 |
| 6日 | 6 | 7 | 7 |
| 7日 | 7 | 8 | 8 |
| 8日 | 8 | 9 | 9 |
| 9日 | 9 | 10 | 10 |
| 10日 | 10 | 11 | 11 |
| 11日 | 11 | 12 | 12 |
| 12日 | 12 | 13 | 13 |
| 13日 | 13 | 14 | 14 |
| 14日 | 14 | 15 | 15 |
| 15-19日 | 17 | 18 | 18 |
| 20-24日 | 22 | 23 | 23 |
| 25-29日 | 27 | 28 | 28 |
| 30-39日 | 34.5 | 35.5 | 35.5 |
| 40-49日 | 44.5 | 45.5 | 45.5 |
| 50-60日 | 55 | 56 | 56 |
| 2月- | 75.5 | 76.5 | 60 |
| 3月- | 105.5 | 106.5 | 60 |
| 4月- | 135.5 | 136.5 | 60 |
| 5月- | 165.5 | 166.5 | 60 |
| 6月以上 | 180 | 180 | 60 |
粗平均入院日数の算出(年齢・性別別)
入院件数で補正済みの入院日数を割ることで、年齢・性別ごとの粗平均入院日数を求めます。数式で表すと次の通りです:
\[ \text{粗平均入院日数} = \frac{\text{給付上限反映後の入院日数の合計}}{\text{入院件数の合計}} \]
この算出により、1回あたりの平均入院日数の基礎値を得ることができます。
転院・再入院を考慮した入院日数の補正
転院・再入院に対する仮定
民間医療保険においては、入院通算期間中の転院・再入院による複数回入院は1回の入院として扱われます。一方で、患者調査では転院・再入院があった場合、別々の入院として集計されています。この違いを反映するため、ここでは以下の仮定に基づき補正を行います。
- 2回目以降の入院日数は1回目の入院日数と同じ分布を持つと仮定する。
この前提に基づき、全ての組み合わせ(1回目の入院日数 × 2回目の入院日数)を作成し、2回の入院が通算された場合の平均入院日数を算出しています。
転院・再入院率による加重平均
転院・再入院を考慮した平均入院日数は、次の式で求められます:
\[ \text{平均入院日数} = (1 – \text{転院・再入院率}) \times \text{入院1回の平均入院日数} + \text{転院・再入院率} \times \text{入院2回の平均入院日数} \]
転院・再入院率とは、退院患者が入院通算期間中に転院・再入院する確率のことです。この値は、予定入院発生率の作成過程で得られた数値を用いています。
これにより、1回の入院のみの場合と、2回目の入院が発生した場合の両方を加味した、より実態に即した平均入院日数を得ることができます。
線形補間と線形補外
代表年齢以外の年齢における予定入院日数を線形補間・線形補外により求めました。
補間(線形補間)
補間とは、既に分かっている年齢 A と年齢 B の値を直線で結び、その直線上の点を使って A と B の間の値を推定する方法です。例えば代表年齢が \(a\) と \(b\)、対応する値が \(x_a, x_b\) のとき、年齢 \(x\)の値は次で与えます。
\[ q_{(x)} = x_a + (x_b – x_a)\frac{x – a}{b – a}. \]
補外(線形補外)
補外とは、既知データの範囲の外側を、範囲内の直近2点の傾きで延長して埋める方法です。既知点が \( (a, x_a) \) と \( (b, x_b) \)で、これより外側の点 \(y>b\) の値は次のように計算します。
\[ q_{(y)} = x_b + \frac{x_b-x_a}{b-a}\cdot (y-b). \]
留意点
予定平均入院日数の作成にあたっては、利用可能なデータの範囲で最善を尽くしましたが、以下のような課題が残っています。
- 患者調査は1か月間のデータに基づいており、疾病ごとの患者数には季節変動の影響が反映されていません。
- 転院・再入院によって通算される入院は2回までとし、3回以上の入院が通算されるケースは想定していません。
計算結果
これらの図表は入院通算期間・給付上限がいずれも60日のケースを表示したものです。
