割引現在価値
現時点の100万円と30年後の100万円の価値は異なり、保険料は運用を考慮して計算されます。
なぜ「将来のお金」は今の価値に引き直す必要があるのか
突然ですが、次の2つの選択肢を提示されたら、あなたはどちらを選びますか?
- 選択肢 A: 「今すぐ」100万円もらう
- 選択肢 B: 「30年後に」100万円もらう
おそらく、ほぼ全員が 「A:今すぐ」 を選ぶはずです。 直感的に「今のほうが価値がある」と感じるからですが、その理由は主に2つあります。
増やせる可能性(運用の力): 今100万円をもらって銀行に預けたり投資したりすれば、利息がついて30年後には100万円以上になっている可能性が高いからです。
物価の変動(インフレ): 30年後に物価が上がっていれば、今の100万円で買えるものが、将来は買えなくなっているかもしれません(実質的な価値の目減り)。
つまり、「現在のお金」と「将来のお金」は、額面が同じでも価値(重み)が異なります。 この「時間による価値のズレ」を調整して、同じ土俵で比較できるようにすることを「割引」といい、調整後の価値を「割引現在価値」と呼びます。
利息の逆回転が割引
「割引」は、皆さんがよく知っている「利息(複利)」の計算を逆に行うことです。 もし、年率 2% で運用できるとしたら、今持っている100万円は1年後、2年後、・・・にどうなるでしょうか。
- 現在: 100万円
- 1年後: \( 100\times 1.02 = 102万円 \)
- 2年後: \( 100\times 1.02^2 = 104万円\)
- 30年後: \( 100\times 1.02^{30} = 181万円 \)
逆に言うと、「30年後に181万円になるものは、今の価値に直すと100万円である」と言えます。 では、「30年後の100万円」は今の価値に直すといくらでしょうか?
これを計算するには、掛け算の逆、つまり割り算を行います。
「将来の100万円は、今の55万円相当の価値しかない」と評価することができます。この計算に使った 2% という利率を「割引率」と呼びます。
割引率は国債利回りをもとに計算します。国債は信用リスクが極めて低く、「最低限確保できる利回り」の基準として用いるのに適しているためです。
保険料計算における割引率 = 予定利率
生命保険では、契約者から保険料を預かってから、保険金を支払うまでに長い時間がかかります(数十年後ということもザラです)。 保険会社は、その間、預かったお金を国債や社債などで運用して増やします。
そのため、あらかじめ「これくらいの利回りで運用できるだろう」という予測を立て、その分だけ今の保険料を割り引いて(安くして)設定します。 この保険料計算に使われる割引率のことを、「予定利率」といいます。
予定利率は、国債の利回りなどを基準としつつ、安全性を見込んで低めに設定します。もし想定した利回りを下回れば保険会社の持ち出し(逆ざや)になってしまうためです。
保険期間が長期間にわたる場合の収支相等式
現実の生命保険契約は保険期間も長期にわたります。前回の記事では、保険期間が3年の契約について、収支相等式を使って保険料を計算する例を示しましたが、そこでは運用を考慮していませんでした。
収入と支出のタイミングがバラバラの場合に一つの関係式で金額を評価するためには、すべての収入と支出を現在価値に直して評価する必要があります。
収入の割引現在価値 = 支出の割引現在価値
保険料の計算例
計算前提
- 被保険者数: 10万人
- 死亡者数: 毎年100人
- 保険金額:1,000万円
- 保険期間:3年
- 予定利率:2%
なお、保険料 は年初払い、保険金は年度末払いとします。
| 年度 | 生存者数 | 死亡者数 |
|---|---|---|
| 1 | 100,000 | 100 |
| 2 | 99,900 | 100 |
| 3 | 99,800 | 100 |
収入(保険料)の割引現在価値
| 年度 | 生存者数 | 保険料現価 |
|---|---|---|
| 1 | 100,000 | \( 100,000 \) |
| 2 | 99,900 | \( 99,900 \times \frac{1}{1.02} \) |
| 3 | 99,800 | \( 99,800 \times \frac{1}{1.02^2} \) |
※ 保険料現価は保険料(P) = 1とした場合の係数です。
支出(保険金)の割引現在価値
| 年度 | 死亡者数 | 保険金現価 |
|---|---|---|
| 1 | 100 | \( 100 \times \frac{1}{1.02}\) |
| 2 | 100 | \( 100 \times \frac{1}{1.02^2}\) |
| 3 | 100 | \( 100 \times \frac{1}{1.02^3}\) |
※ 保険金現価は保険金額 = 1とした場合の係数です。
保険料の計算結果
前回(運用を考慮しない場合)の計算結果は10,010円でしたので、運用益を見込むことで210円だけ安くなりました。長期の契約であれば、運用が保険料を引き下げる効果はさらに大きくなります。
まとめ
- お金には「時点による価値の違い」がある
- 将来のお金は、現在の価値に割り引いて考える必要がある
- 将来の収入と支出の現在価値が一致する保険料を計算する
