保険料を計算してみる
これまでの連載で、保険料を計算する基本的なメカニズムを説明しました。
- 収支相等の原則: 収入と支出はバランスしなければならない
- 割引現在価値: 時点の異なるお金の価値を比較する場合は、運用を見込んで現在の価値に割り引く
- 事業費: 保険会社の経費を保険料に上乗せする
今回は、これらの知識を総動員して、より現実に即した前提のもと、保険料を計算してみましょう。これにより、ブラックボックスだった保険料の中身をより正確に理解することができます。
保険料の計算例
計算前提
- 加入年齢: 30歳
- 性別: 男性
- 保険金額:1,000万円
- 保険期間:10年
- 予定死亡率:生保標準生命表2018(死亡保険用)
- 予定利率:2%
- 予定事業費
- 予定新契約費:保険金額の0.2%
- 予定集金費:保険料の2%
- 予定維持費:保険金額の0.01%
なお、保険料と事業費は年初払い、保険金は年度末払いとします。
生保標準生命表とは?
保険会社は、将来の保険金支払を確実に履行するために法令に基づいて積立金の積み立てを行っています。この計算に用いる死亡率が生保標準生命表です。契約者保護の目的から、保守的な死亡率設定となっています。詳細は後の回で説明します。
脱退残存表とキャッシュフロー
10万人が一斉に保険加入したと仮定し、10年間の「収入(保険料)」と「支出(保険金+事業費)」の割引現在価値を算出します。以下の表は、10万人の生存・死亡推移と、それに伴うお金の動き(キャッシュフロー)をシミュレーションしたものです。
| 年度 | 生存者数 | 死亡者数 | 保険料現価 | 保険金現価 | 新契約費現価 | 集金費現価 | 維持費現価 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 1 | 100,000 | 68 | \( 100,000 \) | \( 68 \times \frac{1}{1.02} \) | \( 100,000 \times 0.2\% \) | \( 100,000 \times 2\% \) | \( 100,000 \times 0.01\% \) |
| 2 | 99,932 | 69 | \( 99,932 \times \frac{1}{1.02} \) | \( 69 \times \frac{1}{1.02^2} \) | \( 0 \) | \( 99,932 \times 2\% \times \frac{1}{1.02} \) | \( 99,932 \times 0.01\% \times \frac{1}{1.02} \) |
| 3 | 99,863 | 70 | \( 99,863\times \frac{1}{1.02^2} \) | \( 70 \times \frac{1}{1.02^3} \) | \( 0 \) | \( 99,863 \times 2\% \times \frac{1}{1.02^2} \) | \( 99,863 \times 0.01\% \times \frac{1}{1.02^2} \) |
| 4 | 99,793 | 72 | \( 99,793\times \frac{1}{1.02^3} \) | \( 72 \times \frac{1}{1.02^4} \) | \( 0 \) | \( 99,793\times 2\% \times \frac{1}{1.02^3} \) | \( 99,793\times 0.01\% \times \frac{1}{1.02^3} \) |
| 5 | 99,721 | 74 | \( 99,721\times \frac{1}{1.02^4} \) | \( 74 \times \frac{1}{1.02^5} \) | \( 0 \) | \( 99,721\times 2\% \times \frac{1}{1.02^4} \) | \( 99,721\times 0.01\% \times \frac{1}{1.02^4} \) |
| 6 | 99,647 | 77 | \( 99,647\times \frac{1}{1.02^5} \) | \( 77 \times \frac{1}{1.02^6} \) | \( 0 \) | \( 99,647\times 2\% \times \frac{1}{1.02^5} \) | \( 99,647\times 0.01\% \times \frac{1}{1.02^5} \) |
| 7 | 99,571 | 83 | \( 99,571\times \frac{1}{1.02^6} \) | \( 83 \times \frac{1}{1.02^7} \) | \( 0 \) | \( 99,571\times 2\% \times \frac{1}{1.02^6} \) | \( 99,571\times 0.01\% \times \frac{1}{1.02^6} \) |
| 8 | 99,488 | 90 | \( 99,488\times \frac{1}{1.02^7} \) | \( 90 \times \frac{1}{1.02^8} \) | \( 0 \) | \( 99,488\times 2\% \times \frac{1}{1.02^7} \) | \( 99,488\times 0.01\% \times \frac{1}{1.02^7} \) |
| 9 | 99,399 | 98 | \( 99,399\times \frac{1}{1.02^8} \) | \( 98 \times \frac{1}{1.02^9} \) | \( 0 \) | \( 99,399\times 2\% \times \frac{1}{1.02^8} \) | \( 99,399\times 0.01\% \times \frac{1}{1.02^8} \) |
| 10 | 99,300 | 108 | \( 99,300\times \frac{1}{1.02^9} \) | \( 108 \times \frac{1}{1.02^{10}} \) | \( 0 \) | \( 99,300\times 2\% \times \frac{1}{1.02^9} \) | \( 99,300\times 0.01\% \times \frac{1}{1.02^9} \) |
※ キャッシュフローの数値は保険料(P) = 1、保険金額 = 1とした場合の係数です。
収入(保険料)の割引現在価値
収入の割引現在価値は、保険料現価の列をすべて合計して、
支出の割引現在価値
保険金の割引現在価値
保険金の割引現在価値は、保険金現価の列をすべて合計して、
事業費の割引現在価値
事業費の割引現在価値は、新契約費現価・集金費現価・維持費現価の列をすべて合計して、
以上の計算から支出の割引現在価値は次のようになります。
保険料の計算結果
みなさまが支払う保険料は、年間で11,300円という試算結果となりました。
計算結果の分析
保険料の試算結果は11,300円となりましたが、この保険料は専門的には営業保険料と呼ばれるもので、保険金支払いの充てられる部分である純保険料と保険会社の経費となる付加保険料の両方を含んでいます。
営業保険料を純保険料と付加保険料に分解すると、次のようになります。
- 営業保険料: 11,300円
- 純保険料: 7,900円
- 付加保険料: 3,400円
つまり、保険料全体のおよそ70%が保険金支払いに充てられ、残りの30%が保険会社の経費となる、という試算結果となっています。実際に販売されている保険商品も純保険料の比率は60%~70%程度であることが多い印象です。
実在するネット系生命保険会社の事業費モデルで再計算
予定死亡率や予定利率、予定事業費率など、保険料の計算に用いられる重要な計算前提を計算基礎率といいます。計算基礎率は生命保険各社が独自に設定することができ、そのため、営業保険料も各社でバラバラです。
計算基礎率は基本的に公表されず、各社の営業保険料の計算過程を追うことはできません。したがって、営業保険料のうち純保険料が占める割合を知ることは困難です。
しかし、ライフネット生命社は保険契約者に対する情報開示の一環として営業保険料に占める純保険料と付加保険料の割合を公表しています。また、少し古い資料とはなりますが、2008年のプレスリリースには付加保険料の計算方法も示されています。
ライフネット生命の事業費モデル
2008年の資料によると付加保険料は次の3つにより構成されます。
- 契約1件あたり月額250円(件数比例のコスト)
- 営業保険料(月額250円の定額部分控除後)の15%(保険料比例のコスト)
- 予定支払保険金の3%(保険金比例のコスト)
保険料の再計算
今回の保険料試算で用いた前提のうち、予定事業費のみをライフネット生命社の事業費モデルに置き換えると営業保険料は次のようになります。
定額部分を除いた収支相等式より、
9,600円は年間保険料で、月額に換算すると800円になります。 ここに、定額の維持費(月額250円)を加えます。
実際の保険料との比較
今回試算した保険料とライフネット生命社の実際の保険料との比較を行いました。
| 保険料 | 当サイト | ライフネット生命社(2008) | ライフネット生命社(2025) |
|---|---|---|---|
| 営業保険料 | \( 1,050\text{円} \) | \( 1,328\text{円} \) | \( 1,068\text{円} \) |
| 純保険料 | \( 660\text{円} \) | \( 890\text{円} \) | \( 438\text{円} \) |
| 付加保険料 | \( 390\text{円} \) | \( 667\text{円} \) | \( 401\text{円} \) |
※30歳男性、保険期間10年、保険金額1,000万円の試算結果。
ライフネット生命社(2008)の保険料と比較すると、当サイト試算の純保険料が月額200円以上安くなっています。これは日本人の死亡率が改善傾向にあるためだと考えられます。生保標準生命表が作成された基準年が2018年です。2008年から2018年の間、日本人の死亡率は年率2%程度の死亡率改善を示しました。ライフネット生命社(2025)の保険料を比較すると、当サイトの試算結果と同水準です。
まとめ
保険会社は保険料計算の基礎となる予定死亡率や予定利率、予定事業費率を公表しておらず、保険料の内訳を知ることは困難です。しかし、保険料を計算するための基本原則(収支相等の原則)はすべての商品で共通しており、公開データを用いることでおおよその保険料構成を把握することができるケースもあります。
「なんとなく不安だから」で加入するのではなく、「このリスクに対して、このコスト(保険料)は適正か?」という視点を持つこと。それが、あなたの大切な資産を守る第一歩です。
参考文献
- 生保標準生命表の作成過程 日本アクチュアリー会
- ライフネット生命 Press Release(参照日:2025年12月17日)
- https://www.lifenet-seimei.co.jp/shared/pdf/2008-1304.pdf
- https://www.lifenet-seimei.co.jp/shared/pdf/insurance_table_202512.pdf
