【アクチュアリーが解説】保険会社はどこから利益を得ているのか

     

保険会社はどこから利益を得ているのか

生命保険を販売することで得られる利益の源泉をアクチュアリーの視点から解説します。

収支相等の原則に利益は考慮されていない

保険料は収支相等の原則に基づいて算出されることを説明しました。収支相等の原則とは、保険会社の収入と支出が一致するように保険料が決定される原則のことで、以下の式が成り立ちます。

\[ \begin{aligned} \text{収入の割引現在価値} &= \text{支出の割引現在価値} \\ \Leftrightarrow \text{保険料の割引現在価値} &= \text{保険金の割引現在価値} + \text{事業費の割引現在価値} \end{aligned} \]

この式に基づいて計算された保険料は専門的には営業保険料といい、営業保険料はさらに純保険料と付加保険料で構成されます。

  • 純保険料: 保険金支払いの”原資”
  • 付加保険料: 保険会社が事業を運営していくための費用

ここまでの説明に保険会社の利益が含まれていないことにお気づきでしょうか?

一般のビジネスであれば、原価に利益を上乗せして価格を決めます(価格=原価+利益)。しかし、保険の基本式には「利益」という項がありません。 もし本当に収支トントンになるように作られているなら、保険会社はボランティア活動をしていることになります。もちろん、そんなはずはありません。保険会社はどこから利益を得ているのでしょうか。

純保険料は”原価”ではない

純保険料は『将来の保険金の支払いに充てる部分』と説明されるため、生命保険の”原価”と誤解されがちですが、実際にはそうではありません。

アクチュアリーが保険料を計算する際、計算の前提となる数値(死亡率や運用利回り)として「最も当たりそうな数値(ベストエスティメイト)」は使いません。 代わりに、「これ以上悪化することはまずないだろう」という保守的な数値を使います。

この「ベストエスティメイト」と「保守的な設定値」の差分のことを、安全割増と呼びます。

  • 想定通りに死亡率や運用が推移すれば、安全割増の部分が保険会社の利益になります。
  • 想定を上回る死亡が発生したり、想定を下回る運用しかできなかったりした場合は、安全割増の部分で吸収します。利益は減少し、場合によっては赤字になります。

同じように将来の事業費も少し高く見積もります。想定通りの事業費しかかからなければ、安全に見積もった分が保険会社の利益になります。

つまり、純保険料も付加保険料もピッタリの見積もりではなく、安全割増込みで設計されているのです。

保険料に対して明示的に利益が上乗せされない理由

日本の生命保険では、保険料に「会社の利益分」を明示的に上乗せすることはありません。 では、なぜそのような仕組みになっているのでしょうか。

その背景には、国内大手の多くが相互会社という特殊な会社形態をとっていることがあります。 相互会社は株式会社と異なり、株主に利益を配当することを目的とせず、 契約者が会社の運営に参加する「契約者のための会社」という特徴があります。 そのため「利益を確保して株主に分配する」という仕組みが基本的に存在しないのです。

一方、海外では株式会社形態の生命保険会社が一般的で、 株主への配当を前提に「利益分」を保険料に明示的に含める国もあります。

日本ではその代わりに、保険料の中に安全割増を織り込み、 予定よりも有利に推移した場合にはその部分が利益となる、という文化が根付いています。 言い換えれば、日本の生命保険では「明示的に利益を上乗せする」のではなく、 「安全マージンを通じて間接的に利益を確保する」仕組みなのです。

保険会社の利益の計算例

では、実際に保険料の中にどれくらいの「安全割増(=潜在的な利益)」が含まれているのか、試算してみましょう。予定事業費は、ライフネット生命社がプレスリリースで公表していた設定を参考にしました。

計算前提

  • 加入年齢: 30歳
  • 性別: 男性
  • 保険金額:1,000万円
  • 保険期間:10年

安全割増を含む計算基礎率

  • 予定死亡率:生保標準生命表2018(死亡保険用)
  • 予定利率:2%
  • 予定事業費
    • 契約1件あたり月額250円(件数比例のコスト)
    • 営業保険料(月額250円の定額部分控除後)の15%(保険料比例のコスト)
    • 予定支払保険金の3%(保険金比例のコスト)

安全割増を含まない計算基礎率

  • 予定死亡率:生保標準生命表2018(死亡保険用) × 70%
  • 予定利率:3%
  • 予定事業費
    • 契約1件あたり月額200円(件数比例のコスト)
    • 営業保険料(月額200円の定額部分控除後)の12%(保険料比例のコスト)
    • 予定支払保険金の2%(保険金比例のコスト)

生保標準生命表には最大で30%の安全割増が設定されています。そのため、安全割増を含まない予定死亡率は、生保標準生命表×70%として簡便に設定しました。

予定事業費の前提は、ライフネット生命の付加保険料の計算方法をベースに作成しましたが、安全割増を含まない予定事業費率は著者の想像で設定したもので、何ら根拠はございません。

なお、保険料と事業費は年初払い、保険金は年度末払いとします。

生保標準生命表とは?

保険会社は、将来の保険金支払を確実に履行するために法令に基づいて積立金の積み立てを行っています。この計算に用いる死亡率が生保標準生命表です。契約者保護の目的から、保守的な死亡率設定となっており、最大で30%の安全割増が含まれています。詳細は後の回で説明します。

試算結果

保険料 安全割増あり 安全割増なし
営業保険料 \( 1,050\text{円} \) \( 730\text{円} \)
純保険料 \( 660\text{円} \) \( 450\text{円} \)
付加保険料 \( 390\text{円} \) \( 280\text{円} \)

安全割増を含む保険料が1,050円であった一方で、安全割増を含まない保険料は730円となりました。この差額320円は、あらかじめ保険料に織り込まれた安全割増に相当します。実際にこれが利益として確定するかどうかは、将来の死亡率・運用実績・事業費実績次第ですが、想定通りに推移すれば、保険会社は月当たり320円の利益を得ることができます。

安全割増を含まない場合の純保険料は450円です。この金額が保険金の支払いに充てられる部分であり、いわゆる”原価”に相当する部分です。割合でいうと保険料全体の43%に過ぎません。

ライフネット生命が保険料の内訳を公表していること自体は、とても素晴らしい取り組みだと思います。ただし、純保険料がすべて保険金支払いに充てられる、というわけではない点に注意が必要です

まとめ

純保険料と付加保険料の両方に含まれている安全割増が保険会社の利益の源泉です。「このリスクに対して、このコスト(保険料)は適正か?」を考える際は、保険会社の利益に相当する部分を除いて考える必要があります。

参考文献

  • 生保標準生命表の作成過程 日本アクチュアリー会
  • ライフネット生命 Press Release(参照日:2025年12月17日)
    • https://www.lifenet-seimei.co.jp/shared/pdf/2008-1304.pdf
    • https://www.lifenet-seimei.co.jp/shared/pdf/insurance_table_202512.pdf