【アクチュアリーが解説】低・無解約返戻金型商品

     

低・無解約返戻金型商品

解約時に保険契約者に払い戻される解約返戻金をゼロまたは低く抑えることにより、保険料を安くする仕組みをアクチュアリーの視点から解説します。

解約返戻金を低くして保険料を安くする仕組み

「低・無解約返戻金型商品」とは、保険契約者が途中で解約した場合に支払われる解約返戻金を、ゼロまたは通常よりも低く抑える代わりに、保険料を安く設定した商品です。

なぜ解約返戻金を減らすと保険料が安くなるのでしょうか?

一般的に、保険契約者が保険会社に支払う保険料は平準払いといって毎年同じ金額です。一方で、保険金支払は被保険者が高齢になる契約の後半に集中して発生します。したがって、保険会社は将来の高齢期の支払いに備え、若いうちの保険料の一部を積み立てています。途中で解約された場合、この積立金は解約返戻金として契約者に返還されます。

しかし、あらかじめ「解約しても積立金は返さない(または一部しか返さない)」という約束で契約を結ぶと、保険会社はその分の浮いた財源を、継続している他の被保険者の保険金支払いに使うことができます。それにより、全体の保険料を引き下げることができます。

つまり、低・無解約返戻金型商品とは、解約した保険契約者が積み立てたお金を没収して、契約を継続した人の保険金支払いに転用することにより保険料を安くしています。

保険料の計算例

一般的な定期保険と無解約型定期保険の保険料を比較し、どの程度保険料引き下げ効果があるか検証してみましょう。

計算前提

  • 加入年齢: 30歳
  • 性別: 男性
  • 保険金額:1,000万円
  • 保険期間:10年
  • 予定死亡率:生保標準生命表2018(死亡保険用)
  • 予定利率:2%
  • 予定解約率: 3%

なお、保険料と事業費は年初払い、保険金は年度末払いとし、死亡と解約は死亡⇒解約の順番で発生するものと仮定します。

生保標準生命表とは?

保険会社は、将来の保険金支払を確実に履行するために法令に基づいて積立金の積み立てを行っています。この計算に用いる死亡率が生保標準生命表です。契約者保護の目的から、保守的な死亡率設定となっています。詳細は後の回で説明します。

定期保険(解約返戻金あり)の純保険料

脱退残存表とキャッシュフロー

10万人が一斉に保険加入したと仮定し、10年間の「収入(保険料)」と「支出(保険金)」の割引現在価値を算出します。以下の表は、10万人の生存・死亡推移と、それに伴うお金の動き(キャッシュフロー)をシミュレーションしたものです。

年度 生存者数 死亡者数 保険料現価 保険金現価
1 100,000 68 \( 100,000 \) \( 68 \times \frac{1}{1.02} \)
2 99,932 69 \( 99,932 \times \frac{1}{1.02} \) \( 69 \times \frac{1}{1.02^2} \)
3 99,863 70 \( 99,863\times \frac{1}{1.02^2} \) \( 70 \times \frac{1}{1.02^3} \)
4 99,793 72 \( 99,793\times \frac{1}{1.02^3} \) \( 72 \times \frac{1}{1.02^4} \)
5 99,721 74 \( 99,721\times \frac{1}{1.02^4} \) \( 74 \times \frac{1}{1.02^5} \)
6 99,647 77 \( 99,647\times \frac{1}{1.02^5} \) \( 77 \times \frac{1}{1.02^6} \)
7 99,571 83 \( 99,571\times \frac{1}{1.02^6} \) \( 83 \times \frac{1}{1.02^7} \)
8 99,488 90 \( 99,488\times \frac{1}{1.02^7} \) \( 90 \times \frac{1}{1.02^8} \)
9 99,399 98 \( 99,399\times \frac{1}{1.02^8} \) \( 98 \times \frac{1}{1.02^9} \)
10 99,300 108 \( 99,300\times \frac{1}{1.02^9} \) \( 108 \times \frac{1}{1.02^{10}} \)

※ キャッシュフローの数値は保険料(P) = 1、保険金額 = 1とした場合の係数です。

収入(保険料)の割引現在価値

収入の割引現在価値は、保険料現価の列をすべて合計して、

\[ \begin{aligned} \text{収入の割引現在価値} &= (100,000+99,932 \times \frac{1}{1.02}+\dotsb +99,300\times \frac{1}{1.02^9}) \times P \\ &= 913,327 \times P \end{aligned} \]

支出(保険金)の割引現在価値

保険金の割引現在価値は、保険金現価の列をすべて合計して、

\[ \begin{aligned} \text{保険金の割引現在価値} &= ( 68 \times \frac{1}{1.02}+69 \times \frac{1}{1.02^2}+ \dotsb + 108 \times \frac{1}{1.02^{10}}) \times 1,000\text{万円} \\ &= 721 \times 1,000\text{万円} \end{aligned} \]

保険料の計算結果

\[ \begin{aligned} & 913,327 \times P = 721 \times 1,000\text{万円}\\ & \Rightarrow P = 7,900 \text{円} \\ \end{aligned} \]

無解約返戻金型定期保険の純保険料

脱退残存表とキャッシュフロー

解約返戻金が支払われるタイプの定期保険と同様に、10万人が一斉に保険加入したと仮定し、10年間の「収入(保険料)」と「支出(保険金)」の割引現在価値を算出します。以下の表は、10万人の生存・死亡・解約推移と、それに伴うお金の動き(キャッシュフロー)をシミュレーションしたものです。

年度 生存者数 死亡者数 解約者数 保険料現価 保険金現価
1 100,000 68 2,998 \( 100,000 \) \( 68 \times \frac{1}{1.02} \)
2 96,934 67 2,906 \( 96,934\times \frac{1}{1.02} \) \( 67 \times \frac{1}{1.02^2} \)
3 93,961 66 2,817 \( 93,961\times \frac{1}{1.02^2} \) \( 66 \times \frac{1}{1.02^3} \)
4 91,079 66 2,730 \( 91,079 \times \frac{1}{1.02^3} \) \( 66 \times \frac{1}{1.02^4} \)
5 88,283 65 2,647 \( 88,283\times \frac{1}{1.02^4} \) \( 65 \times \frac{1}{1.02^5} \)
6 85,571 66 2,565 \( 85,571 \times \frac{1}{1.02^5} \) \( 66 \times \frac{1}{1.02^6} \)
7 82,940 69 2,486 \( 82,940 \times \frac{1}{1.02^6} \) \( 69 \times \frac{1}{1.02^7} \)
8 80,385 72 2,409 \( 80,385 \times \frac{1}{1.02^7} \) \( 72 \times \frac{1}{1.02^8} \)
9 77,903 77 2,335 \( 77,903 \times \frac{1}{1.02^8} \) \( 77 \times \frac{1}{1.02^9} \)
10 75,491 82 2,262 \( 75,491 \times \frac{1}{1.02^9} \) \( 82\times \frac{1}{1.02^{10}} \)

※ キャッシュフローの数値は保険料(P) = 1、保険金額 = 1とした場合の係数です。

収入(保険料)の割引現在価値

収入の割引現在価値は、保険料現価の列をすべて合計して、

\[ \begin{aligned} \text{収入の割引現在価値} &= (100,000+96,934 \times \frac{1}{1.02}+\dotsb +75,491\times \frac{1}{1.02^9}) \times P \\ &= 803,521 \times P \end{aligned} \]

支出(保険金)の割引現在価値

保険金の割引現在価値は、保険金現価の列をすべて合計して、

\[ \begin{aligned} \text{保険金の割引現在価値} &= ( 68 \times \frac{1}{1.02}+67 \times \frac{1}{1.02^2}+ \dotsb + 82 \times \frac{1}{1.02^{10}}) \times 1,000\text{万円} \\ &= 625 \times 1,000\text{万円} \end{aligned} \]

保険料の計算結果

\[ \begin{aligned} & 803,521 \times P = 625 \times 1,000\text{万円}\\ & \Rightarrow P = 7,800 \text{円} \\ \end{aligned} \]

試算結果

解約返戻金が支払われる一般的な定期保険の純保険料が7,900円であったのに対して、無解約返戻金型定期保険の純保険料は7,800円となり、100円だけ保険料を引き下げる効果がありました。

項目 解約返戻金あり 解約返戻金なし 比率
保険料現価 \( 913,327 \times P \) \( 803,521 \times P \) \( 88\% \)
保険金現価 \( 721 \times 1,000\text{万円} \) \( 625 \times 1,000\text{万円} \) \( 87\% \)
純保険料 \( 7,900\text{円} \) \( 7,800\text{円} \) \( 99\% \)

保険金の支払いは契約の後半に集中しやすいため、解約を考慮すると保険金現価の方が保険料現価よりも大きく減少します。その結果、保険料は引き下げられます

今回の試算では、30歳~39歳の死亡率に差がほとんどなく、したがって積立金も小さかったため、無解約返戻金型商品にしたことによる保険料引き下げの効果はわずかなものでした。しかし、保険期間が長期にわたる場合や終身保険などでは積立金が大きいので保険料引き下げ効果も大きくなります

低・無解約返戻金型商品の販売動向

この仕組みは、バブル崩壊後の低金利環境下で、「保障は維持したいが保険料は抑えたい」というニーズに応えるために普及しました。

現在は定期保険で無解約返戻金型が採用されているほか、終身保険では保険料払込期間中の解約返戻金を通常の7割程度に抑制する低解約返戻金型が採用されていることがあります。

  • 定期保険(掛け捨て型): もともと積立金が小さいため、解約返戻金をゼロにしても保険料の引き下げ効果は限定的。しかし、現在の定期保険の多くは「無解約返戻金型」が主流となっており、少しでも安く保障を提供するための標準的な設計となっています。
  • 終身保険(貯蓄型):保険料払込期間中の解約返戻金をあえて7割程度に抑制します。これにより保険料を安くし、保険料払込完了後の「返戻率(支払った保険料に対する解約返戻金の割合)」を、従来型より高く設定することが可能になります。

なぜ終身保険では解約返戻金を「無(ゼロ)」にしないのか?

終身保険で解約返戻金をゼロにすれば、さらに劇的な保険料引き下げが可能になります。

しかし、終身保険は数十年という長期契約です。その間に怪我や病気、災害などの予期せぬ事態でどうしても解約せざるを得ない状況も考えられます。

長年積み立ててきた大きな資産をすべて没収してしまうのは、契約者保護の観点から「酷」であると判断されるため、現在の日本では終身保険の主流は(ゼロではなく)「低」解約返戻金型となっています。

まとめ

  • 低・無解約返戻金型商品は、「途中でやめる人」の積立金を「最後まで継続する人」の保障や貯蓄に振り向け、保険料を安くする仕組みです。
  • 貯蓄性商品:将来の資金形成のための保険。計画的な資産準備向き。
  • 無解約返戻金型は、積立金がもともと大きくない定期保険で活用されており、保険料をぎりぎりまで引き下げる工夫が行われています。
  • 低解約返戻金型は、主に終身保険などで、毎月の負担を軽くしつつ、将来の貯蓄性を高めるために活用されています。

低・無解約返戻金型商品は、最後まで契約を継続する契約者を優遇する仕組みですが、裏を返せば早期に解約してしまうと「通常の保険以上に損をする」可能性があります。そのリスクを認識した上で商品選択を行うことが重要です。