医療保険の注目ポイント
医療保険の主契約部分について加入を検討する際に注意したいポイントをアクチュアリー視点で解説します。
民間医療保険の給付事由
民間医療保険と一口に言っても様々な商品がありますが、主契約として日数に比例する入院保障と、入院一時金やがん診断一時金などの特約を保険契約者のニーズに合わせて組み合わせることができる商品が一般的です。
これは、公的医療保険制度においても長期の入院では自己負担が累積しやすいことや、差額ベッド代・食事代・休業による収入減少など医療費以外の負担も大きくなりやすいことが背景にあります。
以下では入院の日数に比例して給付金が支払われる主契約部分に焦点を絞り、解説します。
給付上限日数
万が一の場合には入院した日数に契約時に定めた入院日額を乗じた金額が給付金として支払われます。
ただし、無制限に支払われる保険商品はほとんどなく、多くの場合、入院給付金の給付対象となる入院日数には上限があります。例えば、上限が60日の場合、入院日数が70日に及んだとしても60日分の給付金しか支払われません。
すなわち、給付金は次のように計算されます。
給付金 = 入院日額×min( 入院日数, 入院上限日数)
入院上限日数は、60日や120日など保険契約者のニーズによって選択できる商品が多いのですが、入院上限日数を長くするほど保険料も高くなるので、保険の加入目的や所得など個人の置かれている状況に合わせて慎重に選択することが重要です。
なお、多くの商品では「1回の入院あたりの支払限度日数」に加えて「通算支払限度日数(例:通算1,000日まで)」も設定されています。
入院通算期間
民間医療保険のもう一つの特徴が、入院日数の通算です。退院から一定期間内の転院または再入院は、入院日数を前回の入院の入院日数と通算して計算します。
例えば、1回目の入院が30日、2回目の入院が40日、入院上限日数が60日の場合、給付金は60日分のみ支払われます。
入院通算期間は商品によって異なります。30日と短期間に設定されている商品もあれば、90日など比較的長期のものもあります。また、180日と長期に設定する代わりに入院の原因となった疾病が異なる場合は期間内の再入院であっても入院期間を通算せずに別の入院として取り扱う商品もあります。
一般に、通算期間が短いほど別入院として取り扱われる可能性が高くなるため保障は手厚くなり、その分保険料は高くなる傾向があります。各社の保険料を比較する際には入院通算期間を保険約款で確認することが重要です。
公的医療保険制度改正の影響
高齢化による医療費の増加に対応するため、政府は短期の入院ほど医療報酬が多くなる改定を行いました。例えば急性期医療を評価する診療報酬体系(DPC制度など)の導入により、早期退院を促す仕組みが整備されました。その結果、短期の入院が増加傾向にあり、それに伴い平均入院日数は短期化しています。
過去販売されていた医療保険には、入院日数が5日を超える場合にのみ給付金を支払うなどとしていたものもありましたが、入院短期化の影響を踏まえ、初日から入院給付金を支払う商品が一般的になりました。
このように医療制度や医療提供体制の変化により、過去に販売された医療保険の保障内容が現在の入院実態に合わなくなる現象を、陳腐化と呼びます。
このような現象から、医療保険に加入する必要はないという意見もあります。
医療保険(入院日額給付)は必要か?
確かに平均入院日数は短期化していますが、医療保険の必要性は平均入院日数ではなく「長期入院が発生した場合の家計への影響」によって判断することが重要です。精神疾患や脳血管疾患など入院が長期化しやすい疾病も多く存在します。
したがって、医療保険の加入を検討する際は、入院日数の分布全体を捉えた上で、みなさまのリスク許容度に応じて加入の必要可否を判断してください。
患者数が短期間の入院に偏っていますが、長期の入院も少なくなく、ロングテールの分布となっています。長期入院の場合、高額療養費制度が適用されることで医療費の自己負担は一定程度抑えられますが、それでも食事療養費や差額ベッド代、休業による収入減少などは補償されません。
患者調査をみるときの注意点
患者調査とは?
保険会社などが入院に関するデータを示すとき、患者調査が引用されることが多いです。
患者調査とは、厚生労働省が全国の病院・診療所を対象に実施する統計調査で、医療施設を利用した患者の傷病構成や入院・外来の実態を把握することを目的としています。
調査では、医療機関を利用した患者について「入院か外来か」「入院期間」「入院原因(疾病/傷害)」「過去の入院歴」などが記録されます。これにより、年齢別・性別・傷病別・在院期間別の入院件数を取得できます。
患者調査は公的機関が実施する信頼性の高いデータですが、データの限界を理解した上で、長期入院の保障が必要でないかを検討する必要があります。
転院・再入院の影響
患者調査は転院や再入院で短期間に複数回入院した場合、それぞれを入院としてカウントしています。一方で、民間医療保険は一定期間内の転院や再入院は入院日数を通算します。
したがって、民間医療保険基準だと入院日数は患者調査よりも長くなると考えられます。
| 年齢 | 退院患者総数(千人) | 過去の入院あり(千人) | 比率 |
|---|---|---|---|
| 0~4歳 | 53.8 | 2.6 | 4.8% |
| 5~9歳 | 16.2 | 1.0 | 6.2% |
| 10~19歳 | 26.0 | 1.9 | 7.3% |
| 20~29歳 | 55.5 | 1.9 | 3.4% |
| 30~39歳 | 79.2 | 3.0 | 3.8% |
| 40~49歳 | 77.1 | 5.3 | 6.9% |
| 50~59歳 | 123.0 | 11.1 | 9.0% |
| 60~69歳 | 182.0 | 19.9 | 10.9% |
| 70~79歳 | 341.0 | 37.5 | 11.0% |
| 80~89歳 | 314.0 | 25.1 | 8.0% |
| 90歳以上 | 119.0 | 6.5 | 5.5% |
年齢区分別に30日以内の再入院割合を示しています。若齢層では再入院割合は4%程度であるのに対して、高齢層では10%以上に上っています。
千人単位で表示されていることによる影響
患者調査は統計数値を千人単位に換算の上で小数点以下第2位を四捨五入して小数点以下第1位までを表示しています。そのため、例えば0.1千人と表示されていた場合、実際には50人から149人までの不確実性があります。
このような丸め処理は平均値だけでなく、特に長期入院の発生頻度の評価にも影響します。
例えば、
- 男性患者数 0.0千人
- 女性患者数 0.0千人
- 男女合計患者数 0.1千人
となっていた場合、当該区分の患者数はゼロとして平均入院日数が計算されてしまいますが、実際にはゼロということはありませんので、平均入院日数は過小になります。
まとめ
- 民間医療保険は長期の入院による家計負担(医療費自己負担・差額ベッド代・食事代・収入減少など)に備えるため、入院日額給付を主契約として設計されています
- 入院保障の必要性は平均入院日数ではなく、入院日数の分布や長期入院が発生した場合の家計への影響を踏まえて判断することが重要です
- 統計データを利用する際には、再入院の取扱いや丸め処理などデータの制約を理解した上で解釈する必要があります
医療保険も死亡保険と同様に、統計データとご自身のリスク許容度、そして万一の際の家計への影響を踏まえて加入の可否を判断することが重要です。
