営業保険料の仕組み
純保険料と付加保険料の違いと計算方法
営業保険料の計算例でわかる、保険料の仕組み
「保険料ってどうやって決まっているのだろう?」と疑問に思ったことはありませんか。 毎月(あるいは毎年)支払うお金だからこそ、その中身を知っておくことはとても大切です。
本記事では、この保険料がどのような仕組みで成り立っているのかを、できるだけわかりやすく、そして少し専門的な視点も交えながら解説していきます。
営業保険料の内訳
みなさんが毎月または毎年、保険会社に支払っているお金のことを、専門的には「営業保険料」と呼びます。 この営業保険料は、大きく分けて次の2つの要素から成り立っています。
- 純保険料: 万一のときに受け取る保険金や給付金の“原資”
- 付加保険料: 保険会社が事業を運営していくための費用
アクチュアリーは、予定死亡率や予定利率といった前提条件を用いて、営業保険料を数学的に導出しています。これらの前提条件は「計算基礎率」と呼ばれ、営業保険料を決定するうえで大きな役割を果たしています。
純保険料の計算基礎率
純保険料は、将来の給付をまかなうための“原資”です。その算出には、リスクや運用に関する前提が必要になります。代表的な計算基礎率は次の3つです。
予定死亡率 (qx)
性別・年齢ごとに将来の死亡率を推計したものです。qx は「x歳の人が1年以内に死亡する確率」を表します。死亡保険では、予定死亡率が高いほど保険金を支払う確率が上がるため、保険料は高くなります。 一方、年金保険や医療保険(将来の給付が生存に依存する商品)では、予定死亡率が高いほど給付期間が短くなるため、保険料は下がります。
予定利率 (i)
保険会社が受け取った保険料を運用して得られる見込み利回りです。将来の給付を運用益で賄えるほど、契約時の保険料は安く設定できます。 逆に予定利率が低い(運用が見込みにくい)場合は、保険料を高めに設定する必要があります。
予定入院発生率など
医療保険や傷害保険では、入院・手術・通院など、給付の発生確率(予定入院発生率など)を推計します。 予定入院発生率が高いほど給付件数・金額が増えるため、保険料は高くなります。年齢構成、疾病構造、医療制度の変化なども考慮して推計されます。
アクチュアリーは統計データや過去実績に基づき、合理的にこれらの前提を設定し、純保険料へ反映させます。
付加保険料の計算基礎率
付加保険料は、保険会社の事業運営に必要な費用をまかなう部分です。主に次の3つの要素から構成されます。
予定新契約費 (α)
新規契約を獲得する際にかかる費用です。営業職員への報酬、広告宣伝費、商品開発費などが含まれます。多くの場合、契約金額に比例して設定されます。これは、保険金額が大きい契約ほど販売に伴う費用も増えるためです。
予定集金費 (β)
保険料を実際に受け取るためのコストです。クレジットカード手数料、銀行振込手数料、収納事務費用などが該当します。営業保険料に比例して設定されるのが一般的です。
予定維持費 (γ)
契約を維持するための費用です。顧客対応、会計業務、システム運用などが含まれます。新契約費と同じく保険金額に比例して設定されるのが一般的です。
アクチュアリーは、これらの費用を合理的に見積もり、付加保険料に反映させます。
この3つの要素を使って付加保険料を決定する方法を「α-β-γ方式」と呼びます。この方式はシンプルで分かりやすいため、現在でも多くの商品で採用されています。ただし近年では、新契約費を初年度にまとめて反映するのではなく、保険期間中に分散して徴収したり、運用資産の残高に応じてコストを反映したりするなど、実際の経費構造に即した修正が加えられることもあります。
純保険料と付加保険料の合計が、契約時にお客様が支払う営業保険料となります。
営業保険料の計算例
ここでは、1年定期保険の営業保険料を具体的な数式を使って計算する例を示します。
計算前提
まず、保険料計算に必要な前提条件を整理します。例として以下を用います。
- 保険金額:\(S\)
- 保険料は年払いで契約時に受領する
- 死亡保険金は1年の終わりに支払われる
- 事業費(新契約費・集金費・維持費)は契約時に発生
- 予定死亡率:\(q_x\)
- 予定利率:\(i\)
- 予定新契約費:\(\alpha\)
- 予定集金費:\(\beta\)
- 予定維持費:\(\gamma\)
収入
保険会社にとっての収入は、契約者から支払われる営業保険料です。ここでは \(\pi\) と表します。
支出
一方、保険会社の支出は以下の通りです。
- 保険金:\(S \cdot q_x \cdot \frac{1}{1+i}\) (契約時点の現在価値で評価)
- 新契約費:\(S \cdot \alpha\)
- 集金費:\(\pi \cdot \beta\)
- 維持費:\(S \cdot \gamma\)
※死亡保険金は1年の終わりに支払われるものと仮定しています。収入・支出の各項目の評価時点を一致させるために死亡保険金の金額を予定利率で契約時点の価値に換算しています。
営業保険料の算出
収入と支出が釣り合うように設定するため、次の関係式が成り立ちます。
\[\pi = S \cdot q_x \cdot \frac{1}{1+i} + S \cdot \alpha + \pi \cdot \beta + S \cdot \gamma\]
これを\(\pi\)について整理すると:
\[\pi = S \cdot \frac{\dfrac{q_x}{1+i} + \alpha + \gamma}{1 – \beta}\]
実務では、純保険料と付加保険料を別々に求めて合算するのではなく、この例のように直接的に営業保険料を計算します。
今回は1年定期保険という単純な例を示しましたが、基本的な考え方は他の保険商品にも共通しています。すなわち、将来の収入と支出を予定利率で契約時点の価値に換算し、両者が一致するように営業保険料を逆算します。
まとめ
- 営業保険料は「純保険料」と「付加保険料」の2つの要素から構成されている。
- 純保険料は予定死亡率や予定利率などの前提に基づき、将来の給付をまかなうための原資となる。
- 付加保険料は、新契約費・集金費・維持費など、保険会社が事業を運営するための費用を反映する。
- 営業保険料の算定は、将来の収入と支出を予定利率で契約時点に割り引き、両者が釣り合うように決定される。
保険料の仕組みを理解することで、なぜその金額になるのかを納得しやすくなります。将来の安心のために支払うお金だからこそ、その成り立ちを知っておくことは大切です。
