終身保険の保険料はどれだけ給付に使われる?加入のポイントとNISA・iDeCoの活用
終身保険に入る前に知っておきたい「保険料の使われ方」をアクチュアリーがわかりやすく解説。給付率や純保険料、競合商品も紹介します。
保険は本来「助け合い」の仕組みですが、なかでも終身保険は、死亡保障が一生涯にわたって続くことに加え、解約返戻金などの貯蓄的な側面を持つのが特徴です。
定期保険が「万一に備えるための純粋な保障」を目的とするのに対し、終身保険は「保障」と「貯蓄」の両方を兼ね備えています。そのため、支払った保険料の内訳が分かりにくく、「どれだけが将来の給付のために使われているのか」は多くの方が気になるところです。
この記事では、当サイトが定義した指標「給付率」を使って、終身保険の“中身”を分かりやすく説明します。
終身保険の給付事由
終身保険の給付事由はシンプルで、主に 「死亡」 と 「高度障害」 の2つです。
死亡
保険期間中に被保険者が死亡した場合、契約時に定めた死亡保険金が支払われます。
例:30歳男性が「終身保険(死亡保険金 1,000万円)」に加入した場合、死亡すると遺族に1,000万円が支払われます。なお、保障は一生涯続きます。
高度障害
多くの終身保険では、死亡に加えて 「高度障害状態」 にも給付があります。
高度障害とは、例えば以下のように「日常生活に著しい制限が生じる状態」を指します。
- 両眼の視力を全く失った場合
- 手足の機能を永続的に失った場合
- 介護なしでは日常生活が著しく困難な場合
この場合も、死亡時と同額の保険金が支払われます。 一度高度障害保険金が支払われると、契約は終了し、その後の死亡に対しては改めて保険金が支払われることはありません。
終身保険がおすすめの人
終身保険は、保障が一生涯続くことに加え、将来的に解約返戻金が発生するなどの貯蓄的な性格を持つ点が特徴です。したがって、単に「万一に備えたい」だけでなく、将来の資金準備や相続対策などを意図して加入するケースに向いています。
葬儀費用や最終整理資金を確実に残したい人
葬儀費用や諸手続き、相続税納付など、死亡時にまとまった現金がすぐに必要になる場面があります。終身保険であれば「いつ亡くなっても」給付があるため、こうした“最後の出費”を確実にカバーできます。
また、自宅や預貯金といった相続財産があり、相続税の支払いが懸念される場合にも有効です。一定額の死亡保険金を残すことで、納税資金や遺族への現金供与を確保でき、さらに保険金は受取人の固有財産となるため、遺産分割のトラブルを避ける手段としても活用されます。
掛け捨てを避けたい・貯蓄が苦手な人
定期保険のように掛け捨てにならず、長期的に見れば支払った保険料が死亡保険金や解約返戻金として戻ってくる設計を好む人に向いています。
貯蓄習慣が苦手で“強制的に長期の資金を確保したい”人や、老後にまとまった資金を準備しておきたい人にも有効です。
終身保険の給付率
「給付率」は、営業保険料(=実際に契約者が支払う保険料)に対する、“真の純保険料”の割合を指します。
給付率 =真の純保険料÷営業保険料
ここでいう「真の純保険料」は、将来の死亡・高度障害に対する期待支払だけを指し、募集手数料や事務費、保険会社の設定する安全割増(利益部分)など保険会社の経費・利益を除いた金額です。
給付率は「支払った保険料のうち何%が純粋に給付のために使われるか」を示す指標です。 給付率をみれば、支払った保険料のうち どれだけが将来の死亡保険金支払のために使われるか がわかります。
計算前提
当サイトでは定期保険の給付率を以下の前提で見積もりました。
- 保険金額 100万円
- 保険期間 終身
- 月払
純保険料を計算するにあたり、予定利率( = 保険会社が契約者に保証する運用利回り)を2.0%としています。これは、国債利回りの直近の動向や、日銀の物価上昇目標を踏まえた設定です。
営業保険料はチューリッヒ生命のホームページより取得しました。(取得日: 2025年10月2日)
計算結果
| 年齢 | 純保険料(円) | 営業保険料(円) | 給付率 |
|---|---|---|---|
| 25歳 | 800 | 1,464 | 54.6% |
| 30歳 | 923 | 1,618 | 57.0% |
| 35歳 | 1,074 | 1,806 | 59.5% |
| 40歳 | 1,259 | 2,040 | 61.7% |
| 45歳 | 1,490 | 2,331 | 63.9% |
| 50歳 | 1,783 | 2,700 | 66.0% |
| 55歳 | 2,158 | 3,178 | 67.9% |
| 年齢 | 純保険料(円) | 営業保険料(円) | 給付率 |
|---|---|---|---|
| 25歳 | 683 | 1,314 | 52.0% |
| 30歳 | 785 | 1,441 | 54.5% |
| 35歳 | 906 | 1,593 | 56.9% |
| 40歳 | 1,053 | 1,776 | 59.3% |
| 45歳 | 1,232 | 2,000 | 61.6% |
| 50歳 | 1,453 | 2,275 | 63.9% |
| 55歳 | 1,730 | 2,624 | 65.9% |
※ 純保険料の計算には、当サイトが開発した純保険料計算ツール Ver 1.0.2を使用しました。
純保険料は、男性>女性、高齢層>若年層の順で高くなる傾向があり、営業保険料も同様の傾向を示します。一方で給付率は、若年・女性で低く、年齢が上がる・男性で高くなる傾向が見られます。これは、保険料が高いほど営業保険料全体に占める新契約費(営業職員への給与や商品開発費用など契約初期にかかる費用で、一般的に保険金額に比例して設定される)の割合が相対的に小さくなることや、契約開始から死亡までの期間が短いほど運用期間が短くなり、純保険料の計算に用いた予定利率と営業保険料の計算に用いられている予定利率の差による影響が小さくなることなどが理由です。
しかしながら、問題は年齢・性別間の給付率の違いにあるのではなく、すべての年齢・性別で給付率が100%を大きく下回っている点にあります。これは、終身保険の利回りが国債利回りを大きく下回っていることを意味しています。国債のリスクはほとんどゼロと考えられるため、利回りとリスクの両面で国債に投資した方が有利です。終身保険に加入する経済的価値は投資効率の観点で国債に劣る、と評価できます。
終身保険が有力な投資先となる限定的なケース
終身保険は一般的に運用利回りが低く「投資目的だけ」で見ると魅力が薄い場合が多いですが、 相続対策の観点からは税制・法的な利点があり、有力な選択肢となり得ます。
税制上の優遇:「500万円×法定相続人数」の非課税枠
死亡保険金については、受取人が法定相続人である場合に「500万円×法定相続人の数」までが相続税の非課税枠として扱われます。したがって、相続税が高額の場合、被相続人の死亡に備えて終身保険で一定額を確保することにより、相続税の課税対象額を抑えられる効果が期待できます。
受取人固有財産・遺産分割に先立つ現金確保(流動性)
保険金は契約上の受取人に直接支払われるため、原則として受取人の固有財産となり、遺産分割協議の対象になりにくい特徴があります。これにより、遺産分割が整う前でも受取人が速やかに現金を手にでき、葬儀費用や相続税納付のための資金として活用できます。
実務上、保険会社は必要書類が整えば比較的短期間で保険金を支払う仕組みを整えており(例:書類到着後数営業日〜数週間、保険会社・契約条件による)、現金化までの期間が短い点も大きな利点です。
加入を検討している方へのアドバイス
加入目的を明確にすること
終身保険に加入する前に、まず「なぜ終身保険に加入するのか」を整理しましょう。
目的が相続税対策や死亡後の流動性確保であれば、終身保険は有力な選択肢です。一方で、単に「万一の保障」や「資産形成」を目的とする場合には、終身保険よりも効率的な代替手段があります。
例えば、保障部分は定期保険、資産形成はNISA・iDeCoや個人向け国債を利用することで、終身保険と同様の効果を享受しつつ、保険会社に支払う事務費を抑え、より高いリターンを得られる可能性があります。
NISA・iDeCoを活用する
NISAは、投資運用益が非課税となる制度です。通常は売却益や配当金に約20.315%の税金がかかりますが、NISA口座では課税されません。この制度には積立投資枠(年間120万円まで)と成長投資枠(年間240万円まで)の2つがあり、合計で年間最大360万円まで非課税投資が可能です。
iDeCo(個人型確定拠出年金)は、拠出額が所得控除となるため、掛金全額が節税効果を持ち、運用益も非課税となります。ただし、原則60歳まで引き出せず、流動性に制限がある点には注意が必要です。
これらの制度は運用リスクを自分が負担する仕組みであり、株価下落や為替変動によって元本割れの可能性があります。したがって「高い期待リターンと流動性制約・元本保証なし」という特徴を理解して利用することが大切です。
個人向け国債で代替する
元本保証を重視する場合は、個人向け国債が選択肢となります。個人向け国債は原則として個人だけが購入でき、半年ごとに利子が支払われ、満期時には元本が全額返還されます。日本政府が発行体であるため、信用リスクはきわめて低いと考えられます。
ただし、利率は市場金利に連動して低く抑えられるため、資産形成効果は限定的です。その分、安全性と流動性に優れ、終身保険のような高い付加費用もかかりません。
まとめ
- 終身保険は「保障+貯蓄」の両機能を持つ一方で、費用構造上リターンは低めに抑えられます。
- したがって、相続税対策や遺族への流動性確保といった終身保険にしかない役割が必要な場合に適しています。
- それ以外の目的なら、定期保険・NISA・iDeCo・国債などを活用する方が経済合理性が高いケースが多いといえます。
当サイトの純保険料計算ツールを使えば、だれでも保険会社の経費や利益を含まない純保険料を計算することができます。ぜひ試してください。
