【アクチュアリーが解説】医療保険の保険料はどれだけ給付に使われる?入院給付金の支払い条件とコスパを詳しく解説

     

医療保険の保険料はどれだけ給付に使われる?入院給付金の支払い条件とコスパを詳しく解説

入院日額タイプ・一時金タイプの違いや、若い人ほど給付率が高くなる理由もアクチュアリー視点でわかりやすく紹介します。

保険は助け合いの仕組みですが、「支払った保険料のうち、自分(または家族)のためにどれだけ使われるのか」は誰でも気になる点です。この記事では、当サイトが定義した指標「給付率」を使って、医療保険(入院給付)の“中身”を分かりやすく説明します。

入院給付金の給付事由

入院給付金の給付事由は、病期やケガでの入院です。ただし、給付事由の詳細は契約の約款に定められており、すべての入院が対象になるわけではありません。健康診断目的の入院、正常妊娠・正常分娩の入院などは支払対象外とされるケースが多いため注意が必要です。

入院給付には入院日額タイプと入院一時金タイプの2種類があります。

入院日額タイプ

入院した 日数 × 日額給付金 に応じて支払う方式です。例えば、入院給付金日額が5,000円、入院日数が10日間なら、5,000円 × 10日 = 50,000円が給付対象となります。設定できる給付日額の目安は数千円〜数万円程度で、保険加入者の実際の入院費用をベースに決められることが一般的です。

多くの契約では「1入院あたり給付を支払う日数」に上限が設定されています。たとえば、60日、120日、180日型などが一般的です。仮に支払限度日数が60日型の契約で、1回の入院が100日間に及んだ場合、給付される給付金は最大 60日分までとなります 。

入院一時金タイプ

入院したとき、日数にかかわらず一定額 を一度で支払う方式です。この方式の利点は、短期入院であってもまとまった保障を受けられることです。たとえば1日入院して終わるケースだとしても、手術・検査費用・入院準備費用などまとまった出費がかかる場合がありますので、そうしたケースに対応しやすいのが特徴です。

ただし、入院が長引いた場合には一時金方式のみでは給付が不十分になる可能性があり、その点を見越して保障構成を設計する必要があります。

再入院の扱いに注意

入院日額タイプと入院一時金タイプの両方で注意すべきなので再入院の扱いです。

入院給付金には、多くの保険で「再入院に関する通算ルール」が定められています。一度退院した後、ある期間内に再び入院した場合、保険上では「同じ入院(=1入院)」として扱われるケースが多く、給付の扱いが異なるタイプでも共通のルールが適用されます。

具体的には、以下のようになります:

  • 入院日額タイプ: 再入院分の入院日数を、最初の入院の日数と通算して給付日数を判断します。
  • 入院一時金タイプ: 再入院しても、給付金の支払いは原則として一度しか行われません。

具体例で示すと、たとえば最初に40日間入院し、退院後50日以内に再度30日間入院したとします。この場合、入院日額タイプでは最初の40日と再入院の30日を合算して70日と見なされ、支払限度日数(例:60日型など)までの給付がされます。入院一時金タイプでは、すでに給付を受けていたため、通常は再入院分には給付されません。

ただし、通算ルールや適用期間(たとえば180日以内/60日以内等)は、保険会社や商品によって異なります。保険契約を選ぶ際には、こうした再入院の扱いを事前に約款で確認することが大切です。

入院給付がおすすめの人

医療保険の入院給付は、病気やケガで入院した際の自己負担額を軽減するための重要な保障です。以下のような方々に特におすすめです。

公的医療保険だけでは不安な方

日本の公的医療保険制度では、医療費の自己負担額は1〜3割に軽減されますが、差額ベッド代や食事代などの自己負担分は全額自己負担となります。これらの費用をカバーするためには、医療保険の入院給付が有効です。

長期入院のリスクに備えたい方

平均入院日数は年々短くなっていますが、長期入院のリスクは依然として存在します。特に高齢者や生活習慣病を抱える方々は、長期入院の可能性が高まります。入院給付金の支払い限度日数や日額を適切に設定することで、長期入院に備えることができます。

入院給付の給付率

「給付率」は、営業保険料(=実際に契約者が支払う保険料)に対する、“真の純保険料”の割合を指します。

給付率 =真の純保険料÷営業保険料

ここでいう「真の純保険料」は、将来の入院給付に対する期待支払だけを指し、募集手数料や事務費、保険会社の設定する安全割増(利益部分)など保険会社の経費・利益を除いた金額です。

給付率は「支払った保険料のうち何%が純粋に保障のために使われるか」を示す指標です。 給付率をみれば、支払った保険料のうち どれだけが将来の入院給付金支払のために使われるか がわかります。

計算前提

当サイトでは医療保険(入院給付)の給付率を以下の前提で見積もりました。

  • 入院日額 1万円 (60日型)
  • 入院一時金額 10万円
  • 退院後の再入院通算期間:60日
  • 保険期間 終身
  • 月払

純保険料を計算するにあたり、予定利率( = 保険会社が契約者に保証する運用利回り)を2.0%としています。これは、国債利回りの直近の動向や、日銀の物価上昇目標を踏まえた設定です。

営業保険料はメットライフ生命のホームページより取得しました。(取得日: 2025年10月4日)

計算結果

入院日額タイプ

男性(入院日額1万円・保険期間 終身・月払)
年齢 純保険料(円) 営業保険料(円) 給付率
25歳9381,01092.9%
30歳1,0581,20088.2%
35歳1,2011,45082.8%
40歳1,3761,76078.2%
45歳1,5932,17073.4%
50歳1,8582,68069.3%
55歳2,1833,32065.8%
女性(入院日額1万円・保険期間終身・月払)
年齢 純保険料(円) 営業保険料(円) 給付率
25歳1,0421,19087.6%
30歳1,1391,31086.9%
35歳1,2391,45085.4%
40歳1,3681,65082.9%
45歳1,5491,98078.2%
50歳1,7782,41073.8%
55歳2,0492,96069.2%

入院一時金タイプ

男性(入院一時金額10万円・保険期間 終身・月払)
年齢 純保険料(円) 営業保険料(円) 給付率
25歳54269078.6%
30歳59777077.5%
35歳66291072.7%
40歳7441,10567.3%
45歳8461,35062.7%
50歳9701,66558.3%
55歳1,1162,06554.0%
女性(入院一時金額10万円・保険期間終身・月払)
年齢 純保険料(円) 営業保険料(円) 給付率
25歳61484572.7%
30歳63985574.7%
35歳65289572.8%
40歳67798568.7%
45歳7361,15064.0%
50歳8151,37559.3%
55歳9081,67554.2%

※ 純保険料の計算には、当サイトが開発した純保険料計算ツール Ver 1.0.2を使用しました。

純保険料は年齢が上がるほど高くなる傾向があり、営業保険料も同様の推移を示しています。これは、年齢の上昇に伴い入院発生率や入院日数が増加するためです。男女で比較すると、若年層では女性の純保険料が男性よりも高い一方で、高齢層になると逆転し、男性の方が高くなる傾向が見られます。

この背景には、若い女性の入院リスクとして妊娠・出産に伴う入院があることが挙げられます。正常分娩は給付対象外ですが、帝王切開などの異常分娩や妊娠関連疾患(例:妊娠糖尿病、妊娠高血圧症候群など)は給付対象となるため、若年女性の純保険料が相対的に高くなります。一方で、加齢とともに生活習慣病などの疾病リスクが高まるため、中高年層では男性の純保険料が女性を上回る結果となります。

また、給付率は全体として若年層で高く、高齢になるにつれて低下する傾向があります。これは、若い年齢で加入した方が、支払った保険料に対して平均的に多くの給付金を受け取れる可能性が高いことを示しています。言い換えれば、若いうちに医療保険へ加入する方が、コストパフォーマンスの観点から有利であるといえます。

若い人の給付率が高い理由

表を見ると、医療保険の給付率(=支払った保険料に対して、どれだけ給付金が戻るかの割合)は、若い人ほど高くなっています。 その理由は、この保険が「無解約返戻金型」と呼ばれるタイプだからです。

無解約返戻金型商品とは?

ふつうの生命保険では、途中でやめたとき(解約したとき)に「解約返戻金(かいやくへんれいきん)」というお金が戻ってきます。これは、将来の給付や解約に備えて積み立てておいたお金の一部を返す仕組みです。

一方で、無解約返戻金型はこの返金がありません。途中で解約した人がこれまで積み立ててきたお金を、契約を続けている他の人の給付原資に回すことで、保険会社は保険料を安く抑えることができるのです。

つまり、「やめたら返ってこないけれど、そのぶん毎月の保険料は安い」という設計です。

終身医療保険は無解約返戻金型にすることで保険料が大きく抑えられている

もともと無解約返戻金型は、定期死亡保険のように積立金がほとんどない保険で多く採用されてきました。定期死亡保険では、仮に解約返戻金を支払っても金額がごくわずかなので、「いっそ返さない代わりに保険料を安くする」という考え方が合理的だからです。

一方で、積立金の金額が大きい保険ほど、無解約返戻金型にしたときの保険料引き下げ効果は大きくなります。たとえば、定期死亡保険を無解約返戻金型にしても効果は限定的ですが、終身死亡保険で導入すれば保険料を大きく下げることが可能です。

しかし、終身死亡保険では無解約返戻金型はあまり採用されません。なぜなら、長期間にわたり高額の保険料を払ってきた契約者が、途中で解約した際に「まったく返戻金がない」とトラブルになる可能性が高いためです。

終身医療保険は終身死亡保険ほど積立金は大きくありませんが、給付が主に高齢期に集中するため、ある程度の積立が必要です。そのため、無解約返戻金型にすることで保険料を安くする効果が比較的大きいのです。

給付率が若い人ほど高くなるメカニズム

医療保険では、実際に入院給付金を受け取るのは高齢になってからが中心です。若いうちに加入した人の中には、給付を受け取る前に途中で解約してしまう人も少なくありません。

無解約返戻金型では、こうして途中で解約した人の保険料が返金されずに残るため、その分を契約を続けている人の給付原資に回すことができます。その結果、若いうちに加入して長く続けた人ほど、支払った保険料に対して将来受け取る給付金の割合(給付率)が高くなるのです。

加入を検討している方へのアドバイス

若くて健康なうちに保険に加入する

給付率は若いうちに契約した方が高くなるため、できるだけ早い段階で加入するのが有利です。

また、若いうちは健康であることが多く、健康体料率の適用を受けられる可能性も高くなります。健康体料率とは、保険会社が定める一定の条件(例:最大血圧140mmHg以下、BMIが18.5〜27.0、入院歴なし)を満たすことで、保険料の割引が受けられる制度です。この割引を受けることができれば、実質的に給付率はさらに高まります。

解約しないことを前提にした商品設計を考える

医療保険の給付率は、一生涯解約しないことを前提として算出されています。無解約返戻金型の終身医療保険では、途中で解約しても返戻金を受け取れないため、途中解約は大きな損失につながります。したがって、長期間継続できるような商品設計が重要です。

まず、将来の医療環境の変化に対応できるよう、入院一時金の比重を高める設計が望ましいと考えられます。日本ではかつて平均入院日数が長い傾向にありましたが、診療報酬制度の改定や、非侵襲的な手術技術の発達により、入院期間は年々短縮しています。今後もこの傾向は続くと見込まれるため、「長期入院に備える」よりも「短期入院に対応できる」保障の方が実態に合っています。

また、保険料を無理のない水準に抑えることも大切です。経済環境の変化や収入減などによって支払いが負担になると、解約せざるを得なくなる可能性があります。加入時点で「長く続けられる金額かどうか」を慎重に検討することが大切です。

投資を備えの柱に、保険は補助として使う

表で示したように、最も給付率が高い層(例:25歳の男性)でも給付率は100%を下回ります。つまり、平均的な「お金の増え方」という意味では、保険は国債や株式といった投資に比べて効率が良いとは言えません。

ただし、保険と投資は目的が違います。投資はお金を増やすことが主な役割ですが、保険の役割は「将来の不確実な出費を抑える」ことです。たとえば、あなたが将来ずっと健康で過ごせるなら保険はほとんど使われず、支払った分が戻らない(見かけ上は損に見える)かもしれません。一方で、もし入退院を繰り返すような事態になれば、保険は支払った何倍もの給付で家計を助けてくれます。こうして、健康状態による将来の収支のブレを小さくするのが保険の本質です。

したがって、投資を「将来の備えの柱」に据えつつ、医療保険は大きな医療費リスクをカバーする補助的な手段として使うのが合理的です。投資で資産を増やしながら、保険で突発的な大きな出費が家計を壊さないように守る。この役割分担が最もバランスの良い向き合い方だと考えられます。

まとめ

  • 無解約返戻金型商品のため、若いうちに加入した方が給付率は高くなり、コストパフォーマンスの観点で有利になりやすい。
  • 投資を「将来の備えの柱」に据えつつ、医療保険は大きな医療費リスクをカバーする補助的な手段として活用する。

当サイトの純保険料計算ツールを使えば、だれでも保険会社の経費や利益を含まない純保険料を計算することができます。ぜひ試してください。