医療保険の保険料はどれだけ給付に使われる?手術給付金の支払い条件とコスパを詳しく解説
給付型の違いや、若い人ほど給付率が高くなる理由もアクチュアリー視点でわかりやすく紹介します。
保険は助け合いの仕組みですが、「支払った保険料のうち、自分(または家族)のためにどれだけ使われるのか」は誰でも気になる点です。この記事では、当サイトが定義した指標「給付率」を使って、医療保険(手術給付)の“中身”を分かりやすく説明します。
手術給付金の給付事由
手術給付金の給付事由は、病気やケガの治療を目的とした手術です。医科診療報酬点数表に列挙されている手術が対象となるため、検査・正常分娩・美容整形・人工妊娠中絶・レーシック手術・歯科手術などは給付対象外となります。
また、医科診療報酬点数表に列挙されている手術であっても、保険約款において給付対象外と明記されている手術を受けた場合には、給付の対象となりません。代表的な例として、以下の手術が挙げられます。
- 創傷処理
- 皮膚切開術
- デブリードマン(壊死組織除去)
- 骨または関節の非観血的整復術、非観血的整復固定術、非観血的授動術
- 抜歯手術
- 鼓膜切開術
- 鼻腔粘膜焼灼術、下甲介粘膜焼灼術、高周波電気凝固法による鼻甲介切除術
- 鼻内異物摘出術、外耳道異物除去術
- 角膜・強膜異物除去術、結膜下異物除去術、結膜結石除去術
このほか、手術以外でも放射線治療や造血幹細胞移植・採取が給付対象となる場合があります。ただし、これらには一定の制約が設けられていることが多く、たとえば放射線治療給付金は「60日に1回を限度」とされていたり、造血幹細胞採取は「加入後1年経過後の治療に限る」といった条件が定められている場合があります。契約前に保険約款を確認しておくことが重要です。
手術給付金額
手術給付金の金額は、多くの保険商品で入院給付金日額 × 所定の倍率として計算されます。たとえば入院給付金日額が1万円の場合、倍率が10倍に設定されている手術では10万円が給付される仕組みです。
この倍率(給付倍率)は、手術の種類や方法、侵襲の程度によって異なります。一般的な傾向は以下のとおりです。
- 入院中の手術:10倍
- 入院中以外の手術:5倍
- 放射線治療:10倍
- 骨髄移植:10倍
給付倍率の水準は保険会社や商品によって異なり、三大疾病の治療を目的とする手術や、開頭・開胸・開腹手術など侵襲性の高い手術では、より高い倍率(20~40倍)が設定されることもあります。
手術給付がおすすめの人
医療保険の手術給付は、病気やケガの治療に伴う突発的な医療費の負担を軽減するための重要な保障です。特に、次のような方におすすめです。
公的医療保険だけでは不安な方
日本の公的医療保険制度では、診療費の窓口負担は年齢や所得に応じて原則1〜3割とされています。高額療養費制度により同一月の自己負担が一定額を超えた場合は払い戻しがありますが、制度の適用を受けるまでの一時的な立替え負担や、制度の仕組み上残る自己負担が生じることがあります。実際に手術を伴う治療では窓口負担(および高額療養費適用後の患者負担)が数十万円に及ぶ例も見られます。手術給付金は、こうした「治療費(患者が実際に負担する自己負担分)」を補填する目的で有効です。
短期入院・日帰り手術に備えたい方
近年は医療技術の進歩により、白内障手術や内視鏡によるポリープ切除など、日帰りや短期入院で実施される手術が増えています。入院日数が短い場合、入院給付金だけでは十分な保障が得られないことがありますが、手術給付金を備えておくことで、短期治療でも必要な費用を確保できます。短期入院や外来手術が一般化している現代において、手術給付の重要性は高まっています。
手術給付の給付率
「給付率」は、営業保険料(=実際に契約者が支払う保険料)に対する、“真の純保険料”の割合を指します。
給付率 =真の純保険料÷営業保険料
ここでいう「真の純保険料」は、将来の手術給付に対する期待支払だけを指し、募集手数料や事務費、保険会社の設定する安全割増(利益部分)など保険会社の経費・利益を除いた金額です。
給付率は「支払った保険料のうち何%が純粋に保障のために使われるか」を示す指標です。 給付率をみれば、支払った保険料のうち どれだけが将来の手術給付金支払のために使われるか がわかります。
計算前提
当サイトでは医療保険(手術給付)の給付率を以下の前提で見積もりました。
- 入院日額 1万円
- 保険期間 終身
- 月払
給付倍率は次のとおりです。
- 入院中の手術:10倍
- 入院中以外の手術:5倍
- 放射線治療:10倍
- 骨髄移植:10倍
純保険料を計算するにあたり、予定利率( = 保険会社が契約者に保証する運用利回り)を2.0%としています。これは、国債利回りの直近の動向や、日銀の物価上昇目標を踏まえた設定です。
営業保険料はなないろ生命のホームページより取得しました。(取得日: 2025年10月5日)
なお、営業保険料は女性の不妊治療に対する給付を含んでいますが、純保険料は女性の不妊治療を含む場合と含まない場合をそれぞれ計算しています。
計算結果
| 年齢 | 純保険料(円) | 営業保険料(円) | 給付率 |
|---|---|---|---|
| 25歳 | 432 | 630 | 68.6% |
| 30歳 | 473 | 710 | 66.6% |
| 35歳 | 520 | 820 | 63.4% |
| 40歳 | 575 | 960 | 59.9% |
| 45歳 | 641 | 1,150 | 55.7% |
| 50歳 | 717 | 1,360 | 52.7% |
| 55歳 | 801 | 1,640 | 48.8% |
純保険料に女性の不妊治療を含む場合
| 年齢 | 純保険料(円) | 営業保険料(円) | 給付率 |
|---|---|---|---|
| 25歳 | 685 | 820 | 83.5% |
| 30歳 | 730 | 860 | 84.9% |
| 35歳 | 729 | 880 | 82.8% |
| 40歳 | 707 | 890 | 79.4% |
| 45歳 | 720 | 990 | 72.7% |
| 50歳 | 779 | 1,110 | 70.2% |
| 55歳 | 844 | 1,260 | 67.0% |
純保険料に女性の不妊治療を含まない場合
| 年齢 | 純保険料(円) | 営業保険料(円) | 給付率 |
|---|---|---|---|
| 25歳 | 500 | 820 | 61.0% |
| 30歳 | 546 | 860 | 63.5% |
| 35歳 | 595 | 880 | 67.6% |
| 40歳 | 650 | 890 | 73.0% |
| 45歳 | 712 | 990 | 71.9% |
| 50歳 | 779 | 1,110 | 70.2% |
| 55歳 | 844 | 1,260 | 67.0% |
※ 純保険料の計算には、当サイトが開発した純保険料計算ツール Ver 1.0.2を使用しました。
純保険料は年齢の上昇に伴って高くなる傾向があり、営業保険料もほぼ同様の推移を示しています。これは、一般的に年齢が上がるほど手術を受ける確率が高まるためです。男女で比較すると、若年層では女性の純保険料が男性より高い一方で、中高年層になると逆転し、男性の方が高くなる傾向が見られます。
この背景には、若い女性特有の手術リスクである異常分娩や不妊治療が関係しています。正常分娩は給付対象外ですが、帝王切開などの異常分娩は給付対象となるため、若年女性の純保険料が相対的に高くなります。一方で、加齢とともに生活習慣病や循環器系疾患などのリスクが増すことで、中高年層では男性の純保険料が女性を上回る結果となります。
また、給付率は全体として若年層で高く、高齢になるにつれて低下する傾向があります。これは、若いうちに加入した方が、支払った保険料に対して平均的に多くの給付金を受け取れる可能性が高いことを意味します。言い換えれば、医療保険は若いうちに加入する方が、コストパフォーマンスの面で有利だといえます。
さらに、若年女性の場合は「不妊治療を給付対象に含めるかどうか」で結果が大きく変わります。不妊治療を考慮する場合、給付率は80%を超える水準となりますが、考慮しない場合は60%台にとどまります。そのため、将来的に出産を予定していない人にとっては、割高に感じられる可能性もあります。
次のグラフは、純保険料の計算に使用した予定手術支払率を男女・不妊治療の有無別に示したものです。不妊治療を含む女性の場合、37歳前後に手術支払率のピークがあることがわかります。このピークが不妊治療を考慮した場合の若年女性の給付率が高い理由です。
若い人の給付率が高い理由
表を見ると、医療保険の給付率(=支払った保険料に対して、どれだけ給付金が戻るかの割合)は、若い人ほど高くなっています。 その理由は、この保険が「無解約返戻金型」と呼ばれるタイプだからです。
無解約返戻金型商品とは?
ふつうの生命保険では、途中でやめたとき(解約したとき)に「解約返戻金(かいやくへんれいきん)」というお金が戻ってきます。これは、将来の給付や解約に備えて積み立てておいたお金の一部を返す仕組みです。
一方で、無解約返戻金型はこの返金がありません。途中で解約した人がこれまで積み立ててきたお金を、契約を続けている他の人の給付原資に回すことで、保険会社は保険料を安く抑えることができるのです。
つまり、「やめたら返ってこないけれど、そのぶん毎月の保険料は安い」という設計です。
終身医療保険は無解約返戻金型にすることで保険料が大きく抑えられている
もともと無解約返戻金型は、定期死亡保険のように積立金がほとんどない保険で多く採用されてきました。定期死亡保険では、仮に解約返戻金を支払っても金額がごくわずかなので、「いっそ返さない代わりに保険料を安くする」という考え方が合理的だからです。
一方で、積立金の金額が大きい保険ほど、無解約返戻金型にしたときの保険料引き下げ効果は大きくなります。たとえば、定期死亡保険を無解約返戻金型にしても効果は限定的ですが、終身死亡保険で導入すれば保険料を大きく下げることが可能です。
しかし、終身死亡保険では無解約返戻金型はあまり採用されません。なぜなら、長期間にわたり高額の保険料を払ってきた契約者が、途中で解約した際に「まったく返戻金がない」とトラブルになる可能性が高いためです。
終身医療保険は終身死亡保険ほど積立金は大きくありませんが、給付が主に高齢期に集中するため、ある程度の積立が必要です。そのため、無解約返戻金型にすることで保険料を安くする効果が比較的大きいのです。
給付率が若い人ほど高くなるメカニズム
医療保険では、実際に手術給付金を受け取るのは高齢になってからが中心です。若いうちに加入した人の中には、給付を受け取る前に途中で解約してしまう人も少なくありません。
無解約返戻金型では、こうして途中で解約した人の保険料が返金されずに残るため、その分を契約を続けている人の給付原資に回すことができます。その結果、若いうちに加入して長く続けた人ほど、支払った保険料に対して将来受け取る給付金の割合(給付率)が高くなるのです。
加入を検討している方へのアドバイス
若くて健康なうちに保険に加入する
給付率は若いうちに契約した方が高くなるため、できるだけ早い段階で加入するのが有利です。
また、若いうちは健康であることが多く、健康体料率の適用を受けられる可能性も高くなります。健康体料率とは、保険会社が定める一定の条件(例:最大血圧140mmHg以下、BMIが18.5〜27.0、入院歴なし)を満たすことで、保険料の割引が受けられる制度です。この割引を受けることができれば、実質的に給付率はさらに高まります。
解約しないことを前提にした商品設計を考える
医療保険の給付率は、一生涯解約しないことを前提として算出されています。無解約返戻金型の終身医療保険では、途中で解約しても返戻金を受け取れないため、途中解約は大きな損失につながります。したがって、長期間継続できるような商品設計が重要です。
まず、将来の医療環境の変化に対応できる給付倍率の型を選択することが望ましいと考えられます。かつては開頭・開胸・開腹手術が多く行われていましたが、現在は非侵襲的な手術技術の発達により、開頭・開胸・開腹手術の件数は減少傾向にあります。今後もこの傾向は続くと見込まれるため、侵襲性の高い手術に備える必要性は低いと考えられます。
また、保険料を無理のない水準に抑えることも大切です。経済環境の変化や収入減などによって支払いが負担になると、解約せざるを得なくなる可能性があります。加入時点で「長く続けられる金額かどうか」を慎重に検討することが大切です。
妊娠・出産の予定がない女性は手術給付をつけないのも選択肢
将来、妊娠・出産を予定していない若年女性の場合、給付率を押し上げる要因となる異常分娩や不妊治療が発生しないため、手術給付を付けることでのコストパフォーマンスは相対的に低くなります。こうしたケースでは、手術給付をつけない選択肢も検討できます。
投資を備えの柱に、保険は補助として使う
表で示したように、最も給付率が高い層でも給付率は100%を下回ります。つまり、平均的な「お金の増え方」という意味では、保険は国債や株式といった投資に比べて効率が良いとは言えません。
ただし、保険と投資は目的が違います。投資はお金を増やすことが主な役割ですが、保険の役割は「将来の不確実な出費を抑える」ことです。たとえば、あなたが将来ずっと健康で過ごせるなら保険はほとんど使われず、支払った分が戻らない(見かけ上は損に見える)かもしれません。一方で、もし手術を繰り返し受ける事態になれば、保険は支払った何倍もの給付で家計を助けてくれます。こうして、健康状態による将来の収支のブレを小さくするのが保険の本質です。
したがって、投資を「将来の備えの柱」に据えつつ、医療保険は大きな医療費リスクをカバーする補助的な手段として使うのが合理的です。投資で資産を増やしながら、保険で突発的な大きな出費が家計を壊さないように守る。この役割分担が最もバランスの良い向き合い方だと考えられます。
まとめ
- 無解約返戻金型商品のため、若いうちに加入した方が給付率は高くなり、コストパフォーマンスの観点で有利になりやすい。
- 投資を「将来の備えの柱」に据えつつ、医療保険は大きな医療費リスクをカバーする補助的な手段として活用する。
- 妊娠・出産の予定がない女性は手術給付をつけないのも選択肢
当サイトの純保険料計算ツールを使えば、だれでも保険会社の経費や利益を含まない純保険料を計算することができます。ぜひ試してください。
