生命保険料控除とは?最大限活用するための仕組み・計算例・注意点
無理に控除上限まで払うのはNG!賢い保険料設定の考え方
生命保険に加入すると、支払った保険料の一部が所得税・住民税の所得控除の対象となり、税金が安くなります。これを「生命保険料控除」といいます。保障を得たり、貯蓄をしながら節税ができるため、生命保険料控除をうまく活用すれば効率的に将来に備えることができます。そのため、生命保険料控除は加入判断に影響を与える重要な要素です。
生命保険料控除の分類
生命保険料控除は支払った保険料の一部または全部が所得税・住民税の課税所得から控除される税制上の仕組みです。
生命保険料控除は、以下の3つに区分され、区分ごとに控除金額を算定した後、最終的に合算します。
一般生命保険料控除
生存または死亡に起因して一定額の保険金が支払われる契約(例:定期保険、終身保険など)が主な対象商品ですが、健康祝金のある医療保険や変額年金保険など幅広い保険商品がここに区分されます。
介護医療保険料控除
病気やけがにより保険金が支払われる契約のうち、医療費に関連するもの(例:医療保険、介護保険、がん保険など)が対象商品です。
個人年金保険料控除
年金を給付する契約で、以下の要件を満たすものが対象商品です。
- 年金の受取人が保険料を払う本人または配偶者であること
- 保険料を10年以上にわたり定期的に支払う契約であること
- 年金の支払開始が原則60歳以降であり、10年以上継続する年金であること
所得税の生命保険料控除額
支払保険料の金額に応じて、所得税の控除額は以下のように決まります。
| 年間の支払保険料等 | 控除額 |
|---|---|
| 20,000円以下 | 支払保険料等の全額 |
| 20,000円超 40,000円以下 | 支払保険料等 × 1/2 + 10,000円 |
| 40,000円超 80,000円以下 | 支払保険料等 × 1/4 + 20,000円 |
| 80,000円超 | 一律 40,000円 |
なお、所得税における生命保険料控除額は、3つの区分と旧制度を合算した場合でも、最大で12万円が限度となります。
住民税の生命保険料控除額
支払保険料の金額に応じて、住民税の控除額は以下のように決まります。
| 年間の支払保険料等 | 控除額 |
|---|---|
| 12,000円以下 | 払込保険料等の全額 |
| 12,000円超 32,000円以下 | 払込保険料等 × 1/2 + 6,000円 |
| 32,000円超 56,000円以下 | 払込保険料等 × 1/4 + 14,000円 |
| 56,000円超 | 一律 28,000円 |
なお、住民税における生命保険料控除額は、3つの区分と旧制度を合算した場合でも、最大で7万円が限度となります。
具体例:年間保険料35,000円の節税効果(所得税率20%の場合)
例えば、所得税率20%の人が年間35,000円の保険料を支払った場合の節税効果を計算します。
所得税控除額
控除額は次の通りです: \(35{,}000 \times \dfrac{1}{2} + 10{,}000 = 27{,}500\)
よって所得税の節税額は: \(27{,}500 \times 20\% = 5{,}500\ \text{円}\)
復興特別所得税(所得税に上乗せ)
所得税額に対して2.1%が上乗せされます: \(5{,}500 \times 0.021 = 116\ \text{円}\)
住民税控除額
住民税の控除額は次の通りです: \(35{,}000 \times \dfrac{1}{4} + 14{,}000 = 22{,}750\)
よって住民税の節税額は: \(22{,}750 \times 10\% = 2{,}275\ \text{円}\)
合計の節税額と実質還付率
上記を合計すると: \(5{,}500 + 116 + 2{,}275 = 7{,}891\ \text{円}\)
支払った保険料35,000円に対する実質的な戻りは、 \(\dfrac{7{,}891}{35{,}000} \approx 0.225\)(約 22.5%)となります。
※ 住民税の節税効果は一律に所得控除額(住民税)の10%で計算しています。
※ 復興特別所得税は、東日本大震災からの復興財源確保のため、2013年から2037年までの期間に適用されるもので、所得税額の2.1%が加算されます。
保険加入の判断への影響
保障性商品
節税がない場合、保険加入の意思決定は効用関数を用いて次のように表されます。
\( u(y – \pi) > p \times u(y_1) + (1 – p) \times u(y_2) \)
一方、節税効果を考慮すると、実際の負担は「保険料 − 節税額」になります。したがって、式は次のように修正されます。
\( u(y – (\pi – c)) > p \times u(y_1) + (1 – p) \times u(y_2) \)
左辺の効用が大きくなるため、この不等式を満たしやすくなり、保険加入の合理性が高まります。
- u: 効用関数
- y: 所得
- p: 損失発生確率
- π: 保険料
- c: 節税額
貯蓄性商品
加入判断は「リターンが国債利回りを上回るか」で行いますが、節税を考慮すると保険商品の実質利回りが改善することがあります。
貯蓄性保険と国債のリターン比較(節税効果を考慮)
まずは計算条件を整理します。
- 保険期間:10年
- 保険料:1万円(年払、期初払い)
- 満期保険金:11万円(10年目期末)
- 加入日:2025年3月31日
- 生命保険料控除による節税額:年間3,000円(所得税:20%、住民税:10%)
| 年度 | 国債金利(%) | 期首割引率 | 期末割引率 | 保険料(円) | 保険金(円) | 節税額(円) | 保険料の現在価値(円) | 節税額の現在価値(円) | 保険金の現在価値(円) |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 1 | 0.64 | 1.000 | 0.994 | 10,000 | 0 | 3,000 | 10,000 | 2,981 | 0 |
| 2 | 0.85 | 0.994 | 0.983 | 10,000 | 0 | 3,000 | 9,936 | 2,949 | 0 |
| 3 | 0.89 | 0.983 | 0.974 | 10,000 | 0 | 3,000 | 9,831 | 2,922 | 0 |
| 4 | 1.02 | 0.974 | 0.960 | 10,000 | 0 | 3,000 | 9,739 | 2,881 | 0 |
| 5 | 1.11 | 0.960 | 0.946 | 10,000 | 0 | 3,000 | 9,603 | 2,838 | 0 |
| 6 | 1.14 | 0.946 | 0.934 | 10,000 | 0 | 3,000 | 9,462 | 2,802 | 0 |
| 7 | 1.20 | 0.934 | 0.920 | 10,000 | 0 | 3,000 | 9,341 | 2,760 | 0 |
| 8 | 1.29 | 0.920 | 0.903 | 10,000 | 0 | 3,000 | 9,200 | 2,708 | 0 |
| 9 | 1.39 | 0.903 | 0.883 | 10,000 | 0 | 3,000 | 9,028 | 2,649 | 0 |
| 10 | 1.50 | 0.883 | 0.862 | 10,000 | 110,000 | 3,000 | 8,831 | 2,586 | 94,811 |
| 合計 | 100,000 | 110,000 | 30,000 | 94,970 | 28,077 | 94,811 | |||
受け取る保険金の現在価値(94,811円)は支払った保険料の現在価値(94,970円)を下回っています。つまり、この保険単体でみると、保険の利回りは国債の利回り以下であり、加入する価値は乏しいといえます。
しかし、節税効果(28,077円)を考慮すると、保険金の現在価値(94,811円)は実質的な保険料(66,893円)を上回っています。これは、保険のリターンが国債の利回りを超え、この保険に加入する最低限の要件は満たしていることを意味しています。
※ 国債金利には期間構造があり、短期・中期・長期で金利が異なります。本例では各年の国債金利を用いて割引計算しています。
※ 節税額は生命保険料控除を前提としています。
無理に控除上限まで加入しない
ただし、「控除を最大限使うために保険料を増やす」ことは必ずしも合理的ではありません。なぜなら、支払保険料が増えるにつれて、支払った保険料に対する節税額の割合は逓減していくからです。
あくまで必要な保障や貯蓄を前提に、その範囲で節税メリットを活用するのが適切です。
所得控除の金額は、支払った保険料に対して「100% → 50% → 25% → 0%」と段階的に下がっていきます。つまり、保険料を増やせば節税額そのものは大きくなりますが、支払った保険料に対する節税効果の割合は低下していきます。
このため、国債利回りと保険商品の利回りを「税引き後ベース」で比較すると、保険料が少額のときは国債利回りを上回りやすい一方、保険料を大きくすると保険本来のリターンに近づき、結果的に国債利回りを下回りやすくなります。したがって、無理に控除上限いっぱいまで加入する必要はなく、例えば年間保険料6万円(所得税控除率50%の上限)や3.2万円(住民税控除率50%の上限)といった水準を意識して調整するのが合理的です。
生命保険料控除の金額は、当サイトが用意したで試算できるのでぜひご活用ください。
まとめ
- 生命保険料控除は、支払った保険料の一部が所得税・住民税の課税所得から控除される仕組みで、節税効果があります。
- 控除には「一般生命保険料控除」「介護医療保険料控除」「個人年金保険料控除」の3種類があり、区分ごとに控除額を計算して合算します。
- 生命保険料控除を活用することで、実質的な保険料が下がり、保険商品の価値は高まります。
- 節税額と支払保険料の比は、支払保険料が大きくなるほど小さくなるため、無理に控除上限額まで保険に加入する必要はない。
必要な保障や自分の所得を確認し、そのうえで生命保険料控除をうまく活用して将来に備えましょう。
